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2016年05月24日23:10

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「馬鑑～山口晃展」/馬の博物館

5/22～23(日,月)と1泊で上京した。

今回のメインは終了間際の若冲展である。
大変な人出と聞くので、それは月曜日に回し、1日目は「馬の博物館」に行った。
山口晃の「馬鑑(うまかがみ)」なる展覧会をやっている。
・会期　3/26～5/29

山口晃の絵は是非観てみたいと思っていたが、なかなか機会に恵まれなかった。
好いチャンスだった。

「馬の博物館」と言ってもピンと来ない方が多いだろう。
日本の洋式競馬は江戸末期、1860年に横浜ではじまり、1866年には根岸競馬場ができた。
その翌年から1942年迄、ここで76年間競馬が行われた。
「馬の博物館」では、馬と人との交流によって生まれた様々な文物を、自然史,歴史,民俗,美術工芸、そして勿論競馬という分野からテーマを定めて紹介するとの事。
広々とした根岸森林公園の一角に「馬の博物館」と「ポニーセンター」が設置されている。

私は新幹線を新横浜で下車、ブルーラインに乗り換え伊勢佐木長者町迄出、そこからバスで約10分の滝の上で降りた。
「馬の博物館」はバス停の目の前である。

私は競馬に興味はないが、今回は、根岸競馬場開設150年と馬事文化財団創立40年の特別企画の一環で山口晃展が開催されるとの事で来てみた。
山口は、不思議な馬を多々描いている。
今展では、山口の作品と、馬の博物館等が所蔵する古画その他、馬に関係するものを並行展示している。
全42件の展示中、ほぼ半分が山口による。

中でも興味深いのは厩(うまや)の絵である。
室町後期から桃山にかけて《厩図屏風》というものが好まれたらしい。武家風俗画のひとつで、厩舎に繋がれた数頭の馬のみを描く場合と、馬の世話人他、その周囲にいる人物等を含めて描く場合とがある。
本展には、二曲一隻と六曲一隻、桃山時代の図屏風が展示されている。
描かれた馬は、共に名馬と呼ぶべきもので、高床の立派な厩に、その躍動感が素晴らしい。

　　　作者不詳《厩図屏風》桃山時代/六曲一隻

こうした古来の厩図屏風を参考にして、山口も《厩圖》を描いた。
展示されているのは、2001年,2004年,2016年の3点で、今年の作品は未完状態。前2者は、カンヴァスに油彩、それぞれ74×175、161×303cm。
描かれている馬は、馬とオートバイの合体したアンドロイドのようなもので、合体の仕方は様々。
馬を世話するちょん髷に烏帽子･着物姿の男の前には、緑色の敷物を敷いた縁側があって、その上で、男や子供が、現代と明治～戦国時代の入り混じったいろんな恰好をしていて、ピールを呑み食事をする者、碁を指す者、ノートパソコンを開く者、茶を運ぶ小型ロボット等々がいる。
2004年作では、坊主頭に半ズボンとTシャツの少年と、お小姓姿の少し年上の美少年が、なまめかしく肩を組んで、1冊の馬のカタログか何かを見ている。
庭では、竹箒で掃除をする尻端折りに襷掛けの男、彼の視線の先、中庭の真ん中では、オートバイと合体した馬に跨った戦姿の武士、彼の背中にはターボのラッパ型排気管が飛び出ていて、馬の赤いくつわを調性しようとするワイシャツに腕まくりの角刈り頭の男、またオートバイの座席にダ･ヴィンチの翼のような幟旗を取り付けようと屈む中間の武家奉公人が働いている。
厩や庭の上には古画によくある和風の白雲がたなびく。

　　山口晃《厩圖》2001/油彩･カンヴァス

大和絵の手法で、油絵具を用い、過去現在未来、時空を超えた不思議な光景になっている。
山口の作品では、合戦図にしても名所絵にしても百貨店図にしても、こうした時空を超えた奇妙な夢のようなものが多い。

2003年の《九相圖》では、73×244cmの横長のカンヴァスの中で、例のオートバイ合体姿の馬が、倒れ、人に看取られ、魂が抜け、大事なメカ部品を取られ、野に放置され、盗賊にタイヤを盗られ、犬に頭を齧られ、腐り、頭蓋骨と部品のバラバラになっていく変化が、各点景として小さく描かれている。

帰りは、同じバス停からJR根岸駅へ下る。
駅周囲をふらふら歩き、ラーメン店で昼食に冷やしつけ麺を食べた。780円也。
JR根岸線南浦和行きを捉まえ、秋葉原で総武線に乗り換え、両国駅下車。
今回のホテルはここ。
意識していなかったが、今日は大相撲五月場所の最終日。駅周囲は大層賑わって、人出も多い。
まずはチェックイン。

まだ陽が高いので、散策に出る。
旧安田庭園を抜けて、隅田川の堤へ。
川沿いに歩くと、じきに工事中の蔵前橋。

水上モーターバイクや水上バスが行き来する。
厩橋迄は少し遠いので、堤防に上り、蔵前橋通り迄戻る。
ビルの隙間から時々スカイツリーが見える。

清澄通りとの角で、横網町公園に入る。
関東大震災で焼け爛れた遺物が園内に多数展示してある。
東京都復興記念館は入場無料。

館内で、大震災と東京大空襲の生々しい写真や絵、諸々の悲惨な展示物に触れる。
五姓田芳柳名のある油彩画もあるが、義松の父ではなく、何代目か後の人だろう。

巨大な東京都慰霊堂の手前には、見落としてしまいそうな場所に、小さな小さな朝鮮人犠牲者追悼碑がある。
そのあまりの大きさの違いに、落莫たる思いに囚われる。

再び清澄通りを南下し、北斎通りへ左折。
葛飾北斎生誕の地があるというので、しばし歩く。
マップで目印のあられ屋さんを過ぎても、何もない。
また戻るが、何もない。
あられ屋の角をよく見ると、文字もかすれた小さな木の立て札を発見する。
石碑か社を勝手に想像していたので見つけられなかったのだ。
北斎通り向い側にある緑町公園の奥には、すみだ北斎美術館が建設中。
キューブに切れ込みが入ったような、凹凸のあるモダンな建物だ。

少し陽も落ちてきた頃、両国駅方向に向かう。
浴衣姿のお相撲さんと幾人も擦れ違う。
今場所も終わり、今晩は大いに呑んで食べるのだろう。
私は駅南の賑やかな街に入り、適当な店でどて焼き等つまみつつ生ビール。

翌朝は、早く起きて上野に向かうつもりだ。
酒も早々に切り上げ、ホテルに帰る。
　
(続く)
　

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