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2017年05月28日21:29

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[観劇]非常の階段/アマヤドリ

 振込詐欺グループが一般家庭に転がり込んで奇妙な共同生活が…という大筋だが、一つ屋根の下で暮らしながら、両者の間でストーリーがほとんど交差することがなかったのはいささか予想外だった。「闇金ウシジマくん」みたいな底辺層のノワールと、男やもめの父親と暮らす3人姉妹、という中流ブルジョアのホームドラマがこのように断絶した形で対置されるのは、日本における階級のあり方を示しているのか。劇中でも言及されるように、こんな連中に関わりたくない、という実も蓋もないリアルさでもある。主人公はこの家庭のはみ出し子(血のつながらない甥)、かつ詐欺グループの構成員という立場でふらつきながら、結局どちらにも居場所を見いだせず、最後に自死を選ぶ。このあたりの描き方、大声で感情を吐露するは、エヴァンゲリオン最終回みたいに皆で取り囲んで糾弾していくは、とあからさまであることをまるで恐れない演出。それが確かに「振込詐欺」というまさしくあからさまに他者の感情を操作する手法とパラレルになっていて、それに心揺さぶられる自分に改めてまた動揺させられる。(確かにこれほど真剣に演技で人を動かそうとしている点ではなまなかな劇団以上なのではないか…あるいは振込詐欺を資金源にしてるアングラ劇団とかいてもおかしくないかも…?)構造化されない私情の吐露は、いくら共感させられたって耳やかましいサイレンにすぎない、見たいのはもっとアートとして昇華されたものだよ、という思ってしまうのも揺さぶられてしまったことへの反発にすぎないか。詐欺グループの勤勉な仕事っぷりは面白いが肝心のその稼ぎと金の使い道にディティールが備わっていないのも、ドラマから社会性を薄くしている感がある。
 とは言え、休憩なし2時間半をまったく冗長に感じさせず観客を引き込むその迫力は並々ならぬもの。また主人公の未熟な青年やその同年代の若者たちの右往左往よりも、年長の男性二人―三人姉妹の父親で余命僅かと宣告され、一人東京から帰郷しようという主人公の叔父(なにより舞台となる借家の家長はこの人なのだ)の鷹揚ぶり、そして詐欺グループのかつての長で、追放されて敵対者となっている男、三人姉妹の長女の恋人でもある彼の、若者たちには未だ見て取れぬ孤独と悪の気配がむしろ舞台の後景にあって気をそそられる要素であったと思う。
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