mixiユーザー(id:21379232)

2015年09月16日12:20

555 view

ミシェル・ウエルベック『服従』

 ミシェル・ウエルベック『服従』(大塚桃訳、河出書房新社、2015年)を読了。近未来のフランスでイスラム政権が成立するという小説。主人公はフランス人の教授で、社会でイスラム教の影響が強くなっていくことに翻弄されつつ、次第にそれを受け入れていく。
 著者が反イスラムであるため、イスラム憎悪を煽る作品と言われてもいるが、どちらかと言えば著者の関心はヨーロッパの衰退にあると思われる。本書でのフランスは個人主義や世俗主義といった価値観への信頼を喪失したからこそ確信に満ちたイスラム政権を受け入れた。それは「神々は既に消え、イエスもまだおらず、ただ人間だけがいた」ローマ帝国がキリスト教に「服従」したのを思い起こさせる。
 なお、作中ではイスラム政権の大統領が北アフリカや西アジアの国々もEUに加盟させ、古代ローマを復活させようとしていると指摘される。ヨーロッパはローマ帝国を自己の源流と捉えているが、古代ローマは中近東も版図に含んでいたのに対し、現実のEUはトルコが加盟するのを拒んでいる。ローマ帝国がキリスト教を国教としたのは末期になってからで、登場人物の一人はオスマン帝国に古代ローマやナポレオン帝国との類似性を見出している。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する