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2015年07月14日23:24

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透明な対象/ウラジーミル・ナボコフ

 ナボコフ後期の長編。国書刊行会版・若島正・中田晶子訳。なにやら観察(描写)の対象とその透明性についての哲学的な言明から幕を開けたこの物語、本筋はヒュー・パースンなる(元)編集者がスイスのホテルを訪ねるところから始まる。それからプロットは過去へと溯り、パースン氏のアバンチュールやら結婚やらをしこたま寄り道しつつ語ったのち、再び現在のかのホテルに戻ったとき、そこは終章、パースン氏が実は8年前この場所で妻を殺害したことが判明し、そして唐突なる火災と死が、彼とこの物語を焼き尽くす。「透明」などとはとんだ反語、彼を駆り立てる悪夢、殺人の動機、愛人Xとの関係、すべては作中に散りばめられた断片を拾い集めて推察していくしかない。そういう微妙きわまる作業そのものが、ここでいう「その物の歴史に沈み込んでしまう」ことを退け、その透明な「薄い皮膜」の上を渡っていく、理想的ナボコフ読者のなすべき技というものなのか。
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