mixiユーザー(id:3341406)

2009年12月14日18:07

244 view

鈴木忠志演出 歌劇『椿姫』

12/13(日)、静岡市にて演出家鈴木忠志による歌劇『椿姫』を観る。
machaさんと彼女のお母様とご一緒させて頂く。

企画は”グランシップ開館10周年記念”と銘打たれている。
“グランシップ”は静岡県コンベンショナルアーツセンターの愛称。
3つある内の中ホール”大地”で行われた。
オーケストラピットを使うと、座席数は1,2階計で760、一体感の出る大きさだ。

macchaさんに獲って頂いた席は8列の12。
向かって左サイドの通路沿いで観易い。
ピットが4列迄入るので、実際は前から4列目。
歌手の表情が、本当に目の前で、ありありと判る良い席だった、特に当夜の演出としては。その訳は、後で触れる事に。

まずデータを示しておこう。

演出 鈴木忠志
指揮 飯森範親
演奏 東京フィルハーモニー交響楽団
出演
ヴィオレッタ 中丸三千繪(s)
アルフレード/ヴェルディ 佐野成宏(t)
ジェルモン 堀内康雄(br)
フローラ 向野由美子(ms)
アンニーナ 家田紀子(s)


合唱 藤原歌劇団合唱部

ダンス振付 金森穣
ダンス 井関佐和子他(Noism1)

舞台構成を、打楽器奏者で、鈴木忠志演出ではよくコラボレーションしている高田みどり。
舞台美術は、岡田晃明と鈴木忠志の息子、鈴木忠広。


さて、鈴木忠志の演出は、面白いものだった。

会場全体が真っ暗闇となり、音楽はまだ始まらない。舞台下手にスポットが徐々に当たり、そこに誰がいるのか明らかになる。ピットの向こう、私の席の目の前だ。
佐野成宏がテーブルを前に椅子に座り、盛んにペンを走らせている。
配役に書かなかったが蔦森晧祐が後ろに現れ、佐野に声を掛ける。
「ジュゼッペ、まだ幻に囚われているのか」
つまり佐野はヴェルディ本人であるらしい。蔦森は父親か。
ヴェルディは、今まさに、『椿姫』を書いているところ。彼の脳内の幻が、これから舞台上に展開される、という訳だ。
ヴェルディにとって、そうあって欲しい女性の姿として、ヴィオレッタは生き、苦しみ、そして死ぬのだ。

物悲しい前奏曲が流れ出す。
ヴェルディ氏は同じ場所で書き続けている。

舞台に黒メガネの男達、黒白斑のコートの女達が入ってくる。いかにも暗黒街の人達の様相。
ヴィオレッタの邸宅で、夜っぴてパーティが始まる。
ボスとおぼしき男が、一途な青年アルフレードを紹介する。
佐野が椅子から立ち上がって、ヴィオレッタの方に向かい歩いていく。ヴェルディの幻の中、自身がアルフレード役を演ずるのだ。
皆に乞われて1曲即興で歌う事になる、有名な「乾杯の歌」。
こうして、舞台の上では、2重の構造が展開されていく。佐野は舞台の真ん中と下手の机の間を行ったり来たり。
幻の内の筋書きは、鈴木忠志は全く書き変えていない。

ヴィオレッタの死を以って、3幕のオペラは終わる。
しかし、鈴木忠志の芝居はもう少し続く。
この後は、映画で言えば、最後のエンドマークとクレジット・バックの部分というところか。

暗闇の静寂の中しばらくヴェルディ氏は机の上でペンを走らせている。
死んだヴィオレッタが静かに立ち上がる。
フィナーレの音楽がもう一度オーケストラによって奏される。しかし敢えてPAを通した音にして、本編外だと判るようにしている。
上から白い紙吹雪が舞ってくる。
ヴィオレッタは舞台の後方にゆっくり去っていく。
ヴェルディ氏は立ち上がってそれを見送る。
紙吹雪は激しくなる。音楽はクレッシェンド。
舞台後方の壁が取り払われると、その向こうに何と静岡芸術劇場ホールの客席が見える。私も何度も足を運んだSPACの劇場だ。こんな背中合わせの構造になっていたとは!
そちらの空間にヴィオレッタは静かに入っていく。1夜の夢幻はこれでお終い、と、まるで象徴するかのように。
音楽はフォルテッシモを迎え、額縁の外のジ・エンドとなる。

スタンディングオベーションで、鈴木忠志の『椿姫』は終わる。
拍手のコールに迎えられて、出演者、裏方の礼が続く。

私の個人的感想としては、現実と幻の交錯という前提は面白かったが、為に、ヴィオレッタとアルフレードの直接的で感情的で破滅的な交わりという側面は薄められる事になったように思えた。
また、中丸三千繪のヴィオレッタは声にゆとりがなく、やや不満足感が残った。大変難しい歌唱の連続ではあるが、破綻しそうな危うさがあちこちにあって、安心して劇に埋没できなかった。帰りの車の中で、macchaさんと会話、「中丸にヴィオレッタを配役したのはどういう経緯からなんだろうね?」。
佐野成宏は、日頃経験しないアルフレードとヴェルディの虚構の2役を演じ切っていた、内実のある声で歌唱も素晴らしかった。


ロビーや客席では著名人の顔をたくさん見かけた。
指揮者、オーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督 井上道義
女優、米倉涼子
デザイナー 山本寛斎
建築家 磯崎新
前静岡県知事 石川嘉延
作曲家 細川俊夫
音楽評論家 長木誠司

他にもたくさんいただろうが、知り得た範囲で。


最後の2人は、当日午前10:30から日本平舞台芸術公園、屋内ホール楕円堂で行われた、有度サロン2009公開講座の講師。
テーマは「現代音楽をめぐって」。
特に20世紀からの現代オペラの動向についてフォーカスし、座談を行った。
これにも3人で参加してきた。

日本でなかなか公演される事のない現代オペラのハイライト・ヴィデオの紹介もあり、衝撃的なものが多かった。傾向は、性、政治、汚れた世界に集約される由。
私の観聴きしたもので一番新しいのは、アルバン・ベルクの『ヴォツェック』だが、これ以降のものも、是非体験したいものだと思った。
観る機会を掴むのは相当に難しいが、この状況は19世紀迄とそう変わらない、と、長木の驚くべき発言。
19世紀迄のオペラは2万以上数える事ができるが、現代でも演ぜられるのは、内100タイトル未満、0.5%未満でしかない。
20世紀オペラが殆ど観聴きできないのも、また、創作されては上演もされずに消えていくのも、統計的に言えば、以前とそう変わりはないのだ、と。


<追記>
・写真は、地方紙の事前と事後の関連記事をスキャナーで取り込んだもの。
・過去の『椿姫』関連日記は以下の通り。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=838385818&owner_id=3341406
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=843198202&owner_id=3341406
 


0 5

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2009年12月>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031