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2021年08月31日08:33

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黒田智『藤原鎌足、時空をかける』

 黒田智『藤原鎌足、時空をかける 変身と再生の日本史』(吉川弘文館、2011年)を読了。藤原鎌足は人口に膾炙されながら、時代の要請に応じて絶え間なくイメージを更新されていった。様々な視覚史料と文字史料の中で鎌足は宇賀弁才天や勝軍地蔵、維摩居士、新羅明神、神武天皇、聖徳太子、九条兼実、頼経、豊臣秀長、松方正義らへ多彩に変身した。
 かつて人は動物と同じように生存競争を繰り返し、生態系の一部をなしていた。動物たちとは互いを兄弟や親子とも認め合う仲間だった。しかし、人はやがて変身という豊穣な想像世界を生み出し、食物連鎖の円環から抜け出していった。
 ところが、神や王の下に超越的な権力を兼ね備えると、人間は生成しないで増幅せず、変化しないものに最上の価値を見出す社会を思考するようになった。変身を禁止して許容しない文明社会が作り上げられていった。変身に彩られた豊穣なイメージ世界は、言わば文明の中に息づく未開の遺産で、鎌足の変身とは文明の漆黒の中で逞しく豊かな文化を創造してきた人間の営みそのものであったと言えるかも知れない。
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