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2019年06月26日20:42

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サキ『ウィリアムが来た時』

 サキ『ウィリアムが来た時 ホーエンツォレルン家に支配されたロンドンの物語』(国書刊行会、2019年)を読了。イギリスの作家サキが第一次大戦前に書いた長編小説で、ドイツ帝国に敗北した近未来のイギリスが舞台となっている。「ディストピア歴史IF群像劇」と銘打たれているが、国家総力戦や全体主義体制を経験していない時代に執筆されたので、ドイツに占領された作中の大英帝国は第三帝国と比較すれば、ディストピアと言いかねるほど穏健な支配がなされている。
 戦争そのものもドイツ軍の電撃的な侵攻であっさりと終わり、国際社会が強く非難せずに同化政策が巧妙に推進されるところも含め、どちらかと言えば中華人民共和国のチベット侵略やロシア連邦のクリミア併合を連想させる。また、総力戦や全体主義を経験していないところは、作中における英国人の考えにも反映されている。彼らは自分たちがまともに戦わないで負け、支配者でなくなったことを悔しがる。
 そこに戦争や帝国主義への反省はない。大英帝国は本土を占領されても植民地は保持しており、亡命政府を作って抵抗活動を続けるが、英国人が現地人に対してドイツ人と似たようなことをしている現実には気付かない。また、主人公はドイツ帝国の支配下で国際的になったロンドン市を嫌うなど国粋的な傾向を見せている。
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