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2019年03月07日20:50

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NHK-BS[プレミアムシアター] 英国ロイヤルオペラ《アンドレア・シェニエ》(ジョルダーノ)

昨2018年9/10、NHK-BS[プレミアムシアター]で英国ロイヤルオペラ《アンドレ・シェニエ》が放送された。大分時間が経ったが、ようやくその録画を見る事ができた。
公演は、2015年の1/29、英国ロイヤルオペラハウスである。

作曲者はウンベルト・ジョルダーノ(1867-1948/イタリア)、台本はルイージ・イッリカによる。
ジュール・バルビエの『アンドレア・シェニエ』やポール・ディモフの『アンドレア・シェニエの生涯と作品』を参考に、架空の人物を主役級に追加する等して台本は創作された。
アンドレア・シェニエ(1762-94/フランス)は実在するロマン主義詩人で、フランス革命に続く恐怖政治の時代、急進派によって断頭台に送られ、31歳で没した。
残された彼の詩の一部は、歌劇のアリアに生かされている。
しかし、台本はイッリカによるフィクションと考えた方がいいだろう。
1895年に作曲され、翌1896年3/28にミラノ・スカラ座で初演された。
全4幕イタリア語。ヴェリズモ・オペラの代表作の1つとされている。

今年2019年はフランス大革命勃発(1879~)から230年という節目の年に当たるため、ヨーロッパでは作品の公演が続いているようだ。

今公演のデータをまとめておく。

指揮 アントニオ・パッパーノ(*1)
演奏 英国ロイヤルオペラハウス管弦楽団/合唱団
演出 デイヴィッド・マクヴィカー(*2)
出演
 アンドレア・シェニエ ヨナス・カウフマン(T)
 マッダレーナ(コワニー伯爵家令嬢) エヴァ・マリア・ウエストブレーク(S)
 カルロ・ジェラール(コワニー家従僕→革命政府高官) ジェリコ・ルチッチ(Br)
 ベルシ(マッダレーナ召使い) デニス・クレイヴス(Ms)
 コワニー伯爵夫人 ロザリンド・プロウライト(S)
 ルーシェ(シェニエ友人) ローランド・ウッド
 密偵(ジェラール配下) カルロ・ボージ(T)

(*1)指揮者パッパーノ(1959- )は2007年にサンタ・チェチーリア管弦楽団を率いて来日した折り、庄司紗矢香とパガニーニのヴァイオリン協奏曲他を聴かせたのが最も印象に残っている。

(*2)マクヴィカー(1966- )による演出は数が多いが、ディアナ・ダムラウが夜の女王を演じたあの《魔笛》、ショスタコーヴィチの《カテリーナ・イズマイロヴァ》、R・シュトラウスの《サロメ》等が特に知られる。あとの2者は共にナージャ・ミヒャエルがタイトルロールを生々しく演じた。

物語は以下のように展開する。
感想も挟みながら書いていこうと思う。

第1幕
パリ郊外にあるコワニー伯爵の大邸宅。フランス大革命勃発の直前だが、貴族の館では今日も華やかでのんきなパーティーが開かれている。
乗り気ではないが、若い詩人アンドレア・シェニエもこのパーティに呼ばれてきた。
伯爵夫人と令嬢マッダレーナに即興詩を所望されるが、彼は「詩興が湧かない」と一旦は断るものの、せがまれて「愛の勝利」について歌いだす。
しかし、世の中にはパンを求めて空しく手を伸ばす人がいるのに、教会も貴族も無視していると続ける。
伯爵夫人も修道院長も腹を立てるが、マッダレーナは憧れの眼差しを去っていくシェニエに向ける。
優雅なガヴォットを踊り出したところを、ぼろを来た人達が侵入する。
コワニー伯爵家従僕のジェラールが彼等を導き入れたのだった。
ジェラールは自身の意志に従い、下僕の衣装を脱ぎ投げ捨てて貧しい人々と屋敷から出ていく。
コワニー伯爵夫人の指図と伴にまたガヴォットが始まる。

冒頭で、ジェラールがパーティの準備のために、「その青いソファをそこに置け」と歌うが、これはモーツァルトの《フィガロの結婚》(1786)の出だしを想わせる。
アルマヴィーヴァ伯爵の従僕フィガロはお下がりのベッドのサイズを計りながら、結婚してスザンナと住む部屋の何処に置こうかと考えている。
ジェラールとフィガロの身分は同じ、何れも家具の置き場所を思案中。
約110年前のフィガロは邸から飛び出ていきはしないが、伯爵に反抗的な態度をみせて、のちの革命と貴族の没落を予想させる。

第2幕
4〜5年後、セーヌ河畔のカフェ。フランス大革命が勃発し、今やロベスピエール等急進派による恐怖政治の時代。
穏健派のシェニエは身の危険を感じ、パリから逃れる事を思案している。
ロベスピエールやサン=ジュスト等革命政府の高官連中が歩いてくる。中にジェラールも混じっている。
彼は密偵に、かねてから焦がれていたマッダレーナの行方を捜すよう命じた。
マッダレーナを含め旧貴族達は、危険を感じてあちこちに身を隠している。

彼女の召使いだったベルシがこっそりシェニエのに近づき、あなたを慕っている女性がここにやってくると告げる。
シェニエの方はそれが最近頻繁に手紙を送ってくる主であろうと気がつくが、誰か判らない。
影で密偵が見張っている。
マッダレーナが現れ、シェニエに話しかける。暗がりの中、シェニエはそれが誰か判らない。
パーティの時の即興詩の出来事を話すと、ようやくシェニエは彼女を認め、2人は忽ち恋に落ちる。
密偵がマッダレーナが現れた事を知らせると、ジェラールが慌ててやってくる。シェニエとジェラールは暗がりの中、剣で相争う事になる。
ジェラールは深い傷を受ける。近寄った相手の顔を見て、ようやくそれがシェニエだと知る。
ジェラールはマッダレーナを助けて逃げるようシェニエに頼む。

第2幕には奇妙なところが多い。
マッダレーナの召使いだったベルシは娼婦になり、その日暮しの金でマッダレーナを匿っている。ベルシが何故そこ迄マッダレーナに献身的にならなければならないのか判らない。

また、シェニエとマッダレーナがいとも容易く恋に落ちるのは何故か?
シェニエはマッダレーナの事は全く忘れていたし、顔を見ても判らなかった程なのに。

ジェラールは、何故シェニエを逃がしたのか?
人々が集まってくれば、恋するマッダレーナが捕縛されてしまうと思ったのかもしれない。が、自分の恋を成就させるためにはシェニエは敵である。シェニエが官憲に捕まり、マッダレーナは密偵に匿わせる、それが一番良いだろうに。
ひょっとするとジェラールは、革命後の急進派のやり方に内心違和感を持っていたのかもしれない。
対してシェニエには、コワニー伯爵邸で会って以来、反貴族という観点でシンパシーを感じていたのか?

第3幕
革命裁判所の広間。
シェニエは結局、革命政府に逮捕されていた。
今日は彼を含む数人の裁判が行われる。
ジェラールは立場上、シェニエの告発状を書かねばならない。
密偵が来て彼に言う、マッダレーナは助命嘆願のためにジェラールに会いに来るに違いない、その時こそ彼女をものにできるチャンスだ。
1人になったジェラールは告発状を書きながら、マッダレーナが欲しいという情欲のために告発状を書こうとしているのか、と自問する。
そこへ、密偵の言った通りマッダレーナが忍んできた。
ジェラールはこの機会にと彼女に近づくが、マッダレーナはシェニエを助けるためならば、と、ジェラールに従う覚悟を示す。
ジェラールはマッダレーナの愛情の深さに打たれ、裁判ではシェニエを弁護する約束をする。
しかし、裁判が始まると、傍聴する市民達も含め、死刑を要求する集団の流れはもう制御が効かない。
遂に死刑の判決が下りてしまう。

ジェラールのアリアは素晴しく心を打つ。
(自分はかつて貴族の使用人だったが)仕える主人が替わっただけで私は今も使用人だ、残忍な暴力に仕える従順なしもべに過ぎない。

それに対して、裁判長に、潔白だと言うなら釈明して見ろと言われて歌うシェニエのアリアは、カウフマンの歌唱力をもってしても説得力がない。
「私は物書きだ。ペンを強力な武器にして偽善者相手に闘ってきた。自らの声で、祖国を称えて歌いもした。白い帆のような人生を私は歩んできた。日の光を浴びて金色に輝く帆、船はしぶきを上げて青い波間を突き進む。私の船は運命の力に押されて、死という白い岩礁に向かうのか。仕方ない、それでも私は船尾に立ち、勝利の旗を風になびかせる、祖国と書いた勝利の旗を。旗にはどんな泥も届かない。私は裏切り者ではない。(そんな私を)殺すのか?それでも名誉は守らせてくれ。」
ヴェリズモオペラらしくない美辞麗句の連なりだ。

第4幕
サン・ラザール監獄、早朝の中庭。
シェニエは死を覚悟し、静かな気持ちで辞世の詩を詠んでいる。
そこにマッダレーナが看守を買収してやってくる。
たまたまシェニエと断頭台に送られる予定だった女性死刑囚と入れ替わって、自分がシェニエと死ぬと告げる。
愛し合ったまま死ねる幸せを崇高に歌う2人。
名前を呼ばれ、断頭台迄乗せる馬車の方へ歩いていく2人の後ろ姿で、幕。


さて、筋書や人物設定を読むと、このオペラ、何かに似ていると感じられるかもしれない。そう、《トスカ》だ。
ちょっと2つのオペラを、項目毎に比較してみよう。

作曲者 ジョルダーノ(1867-1948) / プッチーニ(1858-1924)
台本   イッリカ / イッリカ&ジャコーザ
原作     ― / V・サルドゥ
作曲時期 1895年 / 1896-99年
初演    1896年 / 1900年
物語の背景 仏大革命勃発後の恐怖政治の時代 / 同じくナポレオン戦争の時代
登場人物
 マッダレーナ / トスカ
 シェニエ    / カヴァラドッシ
 ジェラール   / スカルピア

両作品とも、不思議な事に作曲家アルベルト・フランケッティ(186-1942)がオペラ化の権利を当初持っていた。
《アンドレア・シェニエ》の場合、フランケッティがジョルダーノに同情して権利を譲渡した。
《トスカ》の場合は、フランケッティがこの作品の作曲を不可能と認め、プッチーニにお鉢が回ってきた。
ジョルダーノとプッチーニは共にイタリアの殆ど同時期のオペラ作曲家で、殆ど同じ頃に作曲した。
そして、台本は共にルイージ・イッリカが絡んでいる。

登場人物では、愛し合う2人と、その間に入る恋敵の存在がある。彼等は、女性の弱みに付け込んで肉体を奪おうとする。3人の構造は実によく似ている。
但し、スカルピアは根っからの悪人だが、ジェラールはそうでない。彼は、マッダレーナの覚悟に感動し、シェニエを助ける事を決心するのに対し、スカルピアはトスカにナイフで刺殺されてしまう。
ラストは、《アンドレア・シェニエ》がサン・ラザール監獄から刑場に向うところ、《トスカ》はサンタンジェロ城の屋上の刑場で終わる。


《アンドレア・シェニエ》、私は過去に2つを鑑賞している。

CD;J・パタネ指揮ハンガリー国立管弦楽団/1986録音
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=976155957&owner_id=3341406

DVD;F・カプアーナ指揮,B・ノフリ演出イタリア歌劇団1961年来日公演
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1261411347&owner_id=3341406
 
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