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2018年12月05日19:36

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映画 『運命は踊る』 / サミュエル・マオズ

12/4(火)、シネマe~ra浜松で『運命は踊る』を観る。
監督はイスラエルのサミュエル・マオズ。

マオズの長編映画デビュー作『レバノン』(2009)は、ヴェネツィア国際映画祭でグランプリ(金獅子賞)をとった。
私は2011年1月にレンタルDVDで観た。
参)https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1660932054&owner_id=3341406

今回の映画はマオズ8年振りの2作目で、ヴェネツィア映画祭で審査員グランプリ(銀獅子賞)をとった。
私は上の日記で『レバノン』を「奇妙な映画」と書いた。
「冒頭とラストの僅かな映像以外、映画の場所は全て戦車内の狭く汚い空間だ。外部は、戦車の射撃用スコープを通して見る画像のみ」と。

今回の『運命は踊る』も全く同様である。
前作では「タガを嵌める事で、却って映画がより多くを想像させ、より強く語り出す」と表現したが、「タガ」とは「スタイル」である。
映画でしかできない表現、そういう観点で、マオズの作品は前作も今回の作品も全く見事である。
この独創的な「スタイル」を構築するのにマオズは8年の歳月をかけた、と言っていいだろう。

原題は「フォックストロット」。
戦後の日本でも流行ったというダンスのステップの名である。
「前へ、前へ、右へ、ストップ。後ろ、後ろ、そして左へ、ストップ。」
踊り手は結局元の場所に戻ってくる。
それを、邦題では象徴的に「運命は踊る」と称した。

順序は無視して書く。

恐らくイスラエル北部の砂漠地帯か(説明は一切ナシ)、ミハエルとダフナ夫婦の若い息子ヨナタンは、徴兵で送り込まれたこの地の検問所で数人の同僚達と監視役をしている。
24時間の交代勤務で、日に数度検問のバーを上げるのは、一本道をのんきに歩くラクダか、パーティ帰り(?)の男女の車か。
しかし、危険はその背後にへばり付いているらしい。飽き飽きした時間の流れの陰に、一触即発の雰囲気が時に見える。

彼等の軍事基地は道路脇に置いた1個のコンテナである。
食料の缶詰を床に置くと、転がり始め次第にスピードが上がり、鉄の壁にドンとぶつかる。
それにかかる秒数を計る同僚が言う、「8秒かかった」。
しばらして後日また図ると「7秒」。
コンテナは毎日少しずつ傾いているらしい。
だが、誰もだからどうだと言わない。本部に連絡する事もしないし、対策をとろうともしない。
それをカメラは正面から捉えている。薄暗いコンテナの微妙に傾いた室内。
等間隔に置かれた何台かのベッドに座って缶詰を食べる若い兵士達。
青空の下、彼等の検問所で通すラクダのゆっくりした歩み。
戦争の不条理、無意味、最近これ程優れた映像を見た記憶がない。

「フォックストロット」はこの基地の暗号でもあるらしい。
通信は必ず「こちらフォックストロット」で始まる。
真昼、バーのすぐ脇の椅子で時間を持て余しているヨナタンに、同僚が語りかける、
「フォックストロットの意味を知ってるか? こうやるんだ」と踊り出す。
踊りは次第に熱を帯び、マンボの音楽が被る。鉄の長銃を女性に見立て、踊りは見事にエロティックでさえある。

ヨナタンが戦死したと、ミハエルとダフナのアパートを訪ねた軍人が報告する。
失神するダフナ、ミハエルは夫である事、父親である事、社会において成功した人物である事等の立場から感情を押し殺す。

老いた母にこの事を知らせにいく。
施設のホールでは無闇に明るい音楽が流れ、フォックストロットのステップで男女が笑い踊る。
母はおとなしく全てを理解したようで、しかし、ミハエルの首を撫でながら「判ったわ、アヴィクドル」と言う。
「アヴィクドル」はミハエルの兄の名である。

家に戻ると、ダフナは薬のせいでまだ寝ている。
ミハエルは、トイレで一人泣き、自分を責める。手にかかる湯は湯気を立てる程になるが、彼は手を引こうとしない。

翌日、また軍人がやってくる、あれは誤報だった、と。
ダフナは「死んだのはヨナタンじゃなかった」と泣いて受け容れるが、ミハエルは爆発する、
「今すぐ息子を連れ戻せ」。

しかし、結局ヨナタンは死体で家に帰る事になる。
この間は相当な省略がなされていて、最後の最後迄、観客は事実やその訳を理解できない。
夫婦はこの間で不和になっている。別居に至っているのかもしれない。
「あなたが強硬に、今すぐ連れ戻せと言ったから。息子を殺すことになるとは知らなかったにしても、もうあなたとは寝られないし、生きられない」。

ダフナは息子の部屋にあったとマリファナを持ってくる。ミハエルはそれを紙に巻き、交互に吸う。
ミハエルは従軍時代にあった事件を話しだす。誰にも話さなかった苦い記憶だ。
映画の冒頭で流れた、一本道を延々と軍用車が走る図は、その事件の記憶か、それともヨナタンを例の検問所から家に戻すために載せた車か。
ミハエルはダフネに「知ってるかい、こんなダンスを」と言い、例のステップを踊る。
車は一本道を走り続ける。
その道をラクダがゆっくり横切る。


監督・脚本 サミュエル・マオズ
撮影監督 ギヨラ・ベイハ
編集 アリック・ラハブ・レイボビッチ,ガイ・ネメシュ
音楽 オフィル・レイボビッチ,アミト・ポツナンスキー
美術 アラド・サワット

出演 リオール・アシュケナージ―,サラ・アドラー,ヨナタン・シライ他

受賞 ヴェネツィア国際映画祭審査員グランプリ,オフィール賞(イスラエル・アカデミー賞)8部門 他多数

2017年/イスラエル・ドイツ・フランス・スイス
 
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