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2018年09月28日09:31

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渡辺実校注・新潮版「伊勢物語」を読んで



照る日曇る日第1144回

「週刊新潮」や廃刊になった「新潮40」などという下らない雑誌・週刊誌も出して、顰蹙を買っている出版社ではあるが、文芸や古典物では実に良心的な書物を世に送り続けていて、本シリーズの「新装版・新潮日本古典集成」などは、その最たるものだろう。

本日のこれは、あの「源氏物語」に決定的な影響を及ぼしたとされる「伊勢物語」で、右注を頼りに原文を読み下せるからとても重宝する。それまでの古典本の校注者どもは、本シリーズに比べると、なんと読者に不親切かつ傲慢な態度であったことよ。

さて「伊勢物語」の作者は不明であるが、それが「体貌閑麗、放縦にして拘はらず、ほぼ才学無し、よく倭歌を作る」(三代実録)、在原業平が主人公として登場する歌物語であることだけは間違いないようである。

いちばん有名なのは、若き日に(のちに清和天皇妃となった)藤原高子とねんごろだった業平が、往時をしのんだ第4段で、

 月やあらぬ春やむかしの春ならぬ わが身ひとつはもとの身にして

の絶唱は、彼が藤原氏の政略で、泣く泣く恋人と引き裂かれた、悔しさと悲しみから生まれたのであった。

また23段の、幼馴染の物語は、

 筒井つの井筒にかけしまろがたけ すぎにけらしな妹見ざるまに
 くらべこしふりわけ髪も肩すぎぬ 君なたずしてたれかあぐべき
 風吹けば沖つしら浪たつた山 よはにや君がひとりこゆらむ

の歌で知られ、有名な能の題材にもなっている。

しかし日を追って、まわりに死者の匂いが立ち籠める今日この頃、私の心にもっとも痛切に響くのは最終125段である。

 むかし、男、わづらひて、心地死ぬべくおぼえければ、

  つひにゆく道とはかねて聞きしかど きのふ今日とは思はざりしを


  つひにゆく道とはかねて聞きしかど きのふ今日とも思ふ長月 蝶人

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