講談社学芸文庫、「川端康成傑作短編再発見」と銘打たれた12編。
「針と硝子と霧」
心を病みゆく女を、表題の3つのシンボルを用いて描き切る、鬼気迫る短編。散乱するイメージの果てに、放り捨てるような冴え冴えと乾いた結末が凄まじい。
「イタリアの歌」
川端康成とイタリア、という組み合わせは妙にも思えるが、確かに異色な、一種メルヘンめいた雰囲気の短編。あっと驚くような酸鼻な開幕と対照を成す透明感のある結末。戦争、死の投げかける影のもとで光り輝く生、というイメージは確かに南欧風ではある。
「寒風」
1人の癩病者にして文学者(北條民雄)の死を題材としている。現代の目からみると甚だしく差別的なその葬送の細々とした手続きをむしろ淡々と事務的に描き切ることでかえって凄みが生まれている。
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