mixiユーザー(id:4550802)

2017年08月31日22:48

75 view

ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者/アダム・ロバート

 原題「Jack Glass」から些か盛りすぎな邦題ではあるけれど、なにしろこの作者、他の作品も直訳すると「塩」だの「石」だので売り出す羽目になるので、少々のデコレーションは許容範囲であろう。「宇宙的殺人者」はダサいが決して誇張ではないのであるからして。SF+ミステリの美味しいとこ取り、といったコンセプトで不可能犯罪をSFならではの論理で成り立たせる3部作、主人公の「宇宙的殺人者」の神話的キャラクター付けと相まって滅法面白い。それぞれの章にSF/ミステリ的趣向が凝らされているが、第一部は小惑星をまるこご監獄にして、そこの開発とサバイバルを課すというアイディアこそユニークだがなにしろむくつけき男たちが7人、汗と塵芥にまみれて掘ったり掘られたり(!)するむさくるしい話、結末の解放感は心地いいが、その脱出トリックには(素材の強度他)納得いきかねる。だが、ヒロイン(推理が趣味の、太陽系有数の名家のお嬢様!)が登場し、とある一族が独占的に支配するディストピア気味の社会構造も描かれる第2部以降はぐっと面白さが増す。FTL航法の秘密が本書3作を貫く縦糸となり、それを握る殺人鬼にして革命家たる主人公の狂気と凄みも映える。ロンドン大学で19世紀文学を教える大学教授、というお堅そうな作者像からは随分遠い、サービス精神とロジックの悦びに満ちた快作であった。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する