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2017年06月02日22:23

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斜陽/太宰治

 先日観劇した「非常の階段(アマヤドリ)」の元ネタということで手を出してみた。共通すると見て取れるのは己の弱さに食い尽くされるように死んでいく弟と、その弟の兄貴分である無頼の男に危うげな恋をする姉、という3人の主人公、という骨子のみ。しかし、それだけ換骨奪胎していても、数十年の時代差があっても、根底を流れる感情の切実さに響きあうものがあるのは古典のスゴミであろうし、劇作家の慧眼でもあろう。
 没落貴族の姉弟の恋と死を描く本書だが、「日本最後の貴婦人」と讃えられる母が死んで一転、「戦闘、開始」と聖書を引用して個人的革命=既存道徳を踏破した破滅的恋愛へと奔走していく姉がなんとも素晴らしい。一割の滑稽さと、それを笑うものを却って赤面せしむるような真摯さよ。彼ら母子3人揃ってまったく現実社会で生きるすべをもたず、さりとて旧時代の門閥を頼り続けるには高潔でありすぎて、作中でも何度も名の出るチェーホフの悲喜劇そのものだが、彼女にだけはそれら諸々の障碍を突破して戦っていける力が備わっているのだと信じたい。
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