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2016年11月18日23:36

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AIとは人類は共存できるか?人工知能SFアンソロジー/人工知能学会編

 AIをテーマとした短編SFに、それぞれ専門家の解説が付く、という刺激的な構成のアンソロジー。
収録作が年間ベスト級の力作揃いなうえ、解説も単なる総論、最新成果のまとめといった趣きではなく、ちゃんとそれぞれの短編に即して語ってくれていて、研究者の生の声が聴ける感もあって読み応え十分。

・眠れぬ夜のスクリーニング/早瀬耕
 古典的(ディック的)なロボット/人間の識別問題に、LGBTの差別問題、更にロボット化していく労働者問題を絡めている。人間を模したAIに「自分が新入社員/能力が劣る社員」だと思い込ませてロボット差別を認知させないというブラック企業アイディアが怖すぎる…。感情、欲望、差別は一体のもので、AIの意識を考える上で避けては通れないし、その問いは当然人間の側にも投げ返されてくる、という難儀なお話。

・第二内戦/藤井太洋
物凄くタイムリーになってしまった、イデオロギー・人種・テクノロジーの受容を巡って分断されたアメリカ合衆国の話・・・というのはあくまで舞台装置、本題はそのテクノロジー格差を背景に集合知AIが解放されてしまう、というこれまた怖い(しかし楽観も含む)オープンエンド。解説も、このボトムアップ型のAIは(政治と同じく)制御不能、と率直に匙を投げてて、でもそちらの方が効率いいよ、という悪魔の囁き。

・仕事がいつまで経っても終わらない件/長谷敏司
 個人的にはこれが本書ベスト。NOVA+収録「バベル」が「ビッグデータ・宗教・3Dプリンター」の三題噺だったのに対し、こちらは「改憲・AI・デスマーチ」。抱腹絶倒、かなりブラックな風刺劇である。AIの穴を埋めるためにバイトの学生を使い倒す!
「無理な要求の無理な部分は、人力で埋めればいい。人間の知能はフレキシブルなうえに、人力は安いじゃないか」
「人間は機械との競争より、無茶ぶりするボスの下での、機械との共同作業こそ恐れるべきである」
「AI社会で必要な能力とは、AIのできないことに辻褄を合わせる能力だ。つまりカネとコネだ」
・・・ブラックすぎる名台詞がどんどん出てくる。
こういう、AI社会のイヤすぎる一面をシミュレートしてしまうところがSF作家のこれまたイヤすぎる本領なのだなぁ。解説も負けず劣らずキレッキレでたまらん。世論の予測と誘導は表裏一体、かー。


・塋域の偽聖者/吉川亮
チェルノブイリに端を発したシンギュラリティの真相とは…。だいぶラノベっぽいカッコよさに寄っているけど、吉川亮は短編の方が俄然輝いている。AIと宗教、という難儀なテーマも、エンタメの衣のうちにしっかりと描ききっている。

・再突入/倉田タカシ
トリを飾るのは、「AIと芸術」テーマの一遍。宇宙にピアノを打ち上げて「演奏」されるジョン・ケージという冒頭シーンで読者の心を鷲づかみにして、その後のポスト・ヒューマン世界の芸術論へ惹き込んでいく、その手腕はお見事。結末も思わぬ方向へブン投げて、議論を提示するだけの作品として閉じてもいない。解説は主にAIによる小説執筆について、を中心に芸術を通したAIと人間の関係を論じている。



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