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2015年12月16日19:44

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南川高志『海のかなたのローマ帝国』

 南川高志『海のかなたのローマ帝国 増補新版』(岩波書店、2015年)を読了。ローマ帝国はブリテン島を支配したが、北辺の属州において「ローマ人」の意味は極めて曖昧で、ブリテン島の居住者はローマ帝国への帰属意識が濃厚ではなかった。都市や荘園におけるローマ風の生活は先住者の中でもローマ帝国の政府と共に属州の統治に関わる有力者たちの専有物だった。
 「ローマ人であることの」のアイデンティティが充分に確立されなかったブリテン島は、「ローマ人」として暮らすことの意味が減じてゆけば、ローマ風の都市で生活するアメニティのためにある施設は維持されなくなった。ローマ皇帝の政府やブリテン島の属州を統治する者や軍人も、この地をローマ人が暮らす土地として充分に認識してはいなかった。ブリテン島はローマ帝国にとって戦勝の栄光や支持・軍事力を獲得する場だった。
 ブリテン島の住民にとっても「ローマ帝国」は「「海のかなたの帝国」でしかなかった。ブリテン島が完全にローマ帝国になったのは、近代以降に形成された歴史像においてだった。ゲルマン系の本家であるドイツの現実的な脅威が増大し、大英帝国の世界支配が翳りを魅せると、イギリス人はイギリスをローマ帝国に結び付けた。
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