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2015年08月25日00:00

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伊藤計劃トリビュート/藤井大洋他

 計730頁という大ボリュームに恥じない傑作揃い。どれをとっても年間ベスト級という水準の高さに驚かされる。オマージュ作品の多さを見るにつけ、「伊藤計劃」メソッドというSFの作り方があるのではないか、という気もしてくる。作家性というより情報の切り取り方、世界の観方がそれを成型するのではないか。そしてこのように一定の才能ある作家にはある程度模倣できてしまう域を超えた、作品の(質以前の)量/束を生成できずに終わったのが伊藤計劃の夭折にまつわる悲劇の本質なのかも。

・にんげんのくに/仁木稔
人間性、意識という伊藤計劃的(同時にイーガン的)テーマにのっとりつつ、十八番の中南米ネタを盛り込んだポストヒューマン人類学SF。文化という人間性の根源、と思われているもののフィクション性を冷徹に抉りだす。SF的であるのは、それが外から来た文化人類学者、という定型とはいささか外れた視点から描かれること。それだけにあっさりと「人間の外」へよろめき出てしまった主人公のよるべなさが恐ろしくも魅力的だ。

・フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪/伴名錬
 「屍者の帝国」の私的再現であると同時に全伊藤計劃作品の総合、という愚直なまでのトリビュート作品。円城塔版よりも短くまとまってパンチがある、ビクトリア朝オールスター(リーグオブエキストラオーディナリージェントルメン!)。ナイチンゲール=クリーチャーにチャールズ・ドジソンのヴォーパルバニーと小ネタもそれっぽい。

・怠惰の大罪/長谷敏司
 他の作家がマジメにトリビュートして概してユートピア/ディストピアものでまとめている中、この人だけがまっこうから異質な作風をぶつけている。「Beatless」や「あなたのための物語」を観ればそっち系の作品はむしろ得意な筈なのに・・・。だが明らかに本作中ベストなこの作品は、キューバを舞台にした泥臭く血腥い任侠大戦争!昭和の広島を舞台にしても同じものが描けそう。巻末という配置の妙かもしれないが、しかし個人的には本書中ベストの作品でもある。人間の意識にまつわる哲学的思索から、一気に現実に襟首ひっつかまれて叩きおろされたような衝撃がある。
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