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2014年12月05日23:45

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黒い破壊者 宇宙生命SF傑作集/中村融編

 宇宙生物を題材にしたアンソロジー。

・狩人よ、故郷に帰れ/リチャード・マッケナ
 冒頭の本作が、おそらく本書のベストでもある。おそらくはアメリカ人の戯画でもある悲しいほどにマッチョな狩猟民族モーディン人と、その価値観を捨てられず苦しむ若者の恋とジレンマ、彼らを圧倒的に打ち負かし、しかし優しい結末を花開かせる、大いなる生命体「フィト」・・・。作中の各要素は今見ても古びていないし、見事に噛み合っている。

・おじいちゃん/ジェイムズ・H・シュミッツ
ワン・アイディアの異星生態学ものだが、逃げ場のない生物艀の上、という緊迫したシチュエーションが良い。

・キリエ/ポール・アンダースン
 超新星探査に向かう船に同乗するプラズマ生命体と、「彼」と唯一心を通わせられる孤独なテレパス。ブラックホールや超新星の隔絶したスケールと、テレパシーでの密かなる異種交流の対比が見事なだけに、結末の悲劇性がいっそう際立つ。

・妖精の棲む樹/ロバート・F・ヤング
 ヤングの書くロマンスSFの中では、「たんぽぽ娘」も凌いでこれが一番好きかもしれない。世界樹を切り倒す樵と、彼の目の前に幻のようにあらわれる「ドライアド」との対決/愛。ロマンスの甘ったるさはここにはなく、血のように滴る樹液の描写、生と死の交錯がエロチックでさえある。

・海への贈り物/ジャック・ヴァンス
 海洋生物とのファースト・コンタクトを描く。あくまで主体は人間の側にあり、ヴァンスとしてはあまりに真面目で、普通のSFである。

・黒い破壊者/A.E.ヴァン・ヴォークト
名高きケアル(個人的には「クァール」の方がエキゾチックな響きがあって好きだが)の登場する、『宇宙船ビーグル号の冒険』に組み入れられる前のオリジナル短編。狡智とエネルギーを自在に操る圧倒的な超能力を持ちながら、自らの獣性と退廃によって敗れ去る、孤独な怪物には、やはりグッとくるものがある。その敗北の歴史的必然性を説く、カリタ博士の冷徹さがむしろ憎い。
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