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2009年01月18日00:16

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コージンツェフ 映画『ドン・キホーテ』

macchaさんにお借りしたDVDから、1/16、グリゴーリー・コージンツェフ(1905-73/ソ連)の映画『ドン・キホーテ』を観ました。


コージンツェフの作った映画としては、これ迄に『ハムレット』(1964)と『リア王』(1970)を観ています。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=986782200&owner_id=3341406

これが製作されたのは、1957年。実に、ハンガリー動乱の翌年です。
コージンツェフ初期の前衛性は既に影を潜め、国策である社会主義リアリズムの路線に従って作られています。『ハムレット』『リア王』も、時代は離れていますが、そういう意味では、同じ。大衆に理解できる事を使命づけられ、ドン・キホーテの遍歴の発端から、各エピソードも丹念に描いていきます。それにしても、その描出の下地となる、ヨーロッパ古典芸術への理解と造詣の深さには、全く驚かされます。

キホーテの遍歴は、原作の通り滑稽な失敗の連続ですが、しかし、その徒労感の滲み出る様、そのあまりの強さに、この映画を観るものは異様な感慨を持たざるを得ません。
有名な風車を巨人の悪魔フレストンと見紛い、戦いを挑み、振り回されて地面に叩き付けられるキホーテは、社会主義体制と1個人の虚しい闘いを見るようです。
この戦いの直前、別かれ別かれになっていたサンチョ・パンサと出会ったキホーテは、彼にこう言います。
「泣くな、自由になった事を喜ぼう。自由だ、これこそ神の最高の贈り物だ、命かけても守るべきものだ。隷属は最大の不幸。フレストンを打倒し、世界を解放するのだ。」
社会主義リアリズムの形骸は採りながら、自由を求める芸術家の本音がここに表れています。
この作品が、ソ連当局によって、コージンツェフのリストから外されていた訳が判ろうというものです。

この作品のロケ、実はクリミア半島、ヤルタの近くであったようですが、全くスペインの大地と違和感がありません。
風車も、スペイン風の住居も、ここにセットで組まれたものだとの事。
荒地の丘の彼方、夕陽の向こうに、2人がロシナンテとロバ(名前は?)に乗って遠ざかっていくシーンの美しさ等、スペインで撮影したと言われたら、その通りと信ずるでしょう。
そういえば、『ハムレット』は、旧ソ連領エストニアのバルト海沿いで撮影されたのでした。まさか城はセットではないでしょうけれども。
彼の自然描写力の凄さには驚嘆します。


『ドン・キホーテ』は、また、静岡芸術劇場SPAC公演で、原田一樹演出の演劇を、昨12月観たばかりでもあります。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1023203520&owner_id=3341406

この映画とSPAC公演を対比して観ると、原田演出の最大のテーマは、複層性、物語が物語を新たに生み出す構造にあった事が確認でき、勉強になりました。この性格については、上のurlの日記で確認下さい。
原作にも現れるこの複層性、自意識の問題には、コージンツェフは全く興味を示していません。面白い事です。


原作 ミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ(1547-1616)
監督 グリゴーリー・コージンツェフ
脚色 エフゲニー・シュワルツ
撮影 アンドレイ・モスクピン,アポリナリー・ドゥドコ,エドゥアルド・ロゾフスキー
音楽 カラ・カラーエフ(*)
出演 ニコライ・チェルカーソフ,ユーリー・トルベーエフ 他
1957年ソ連映画

(*)コージンツェフの映画音楽はショスタコーヴィチによるものが多いですが、これはカラーエフ。繰り返し現れるキホーテの遍歴のテーマは、プロコフィエフを想わせます。
 
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