12/14(日)、東名高速を浜松市から静岡市へと車を走らせ、静岡芸術劇場SPAC秋のシーズン2008より、『ドン･キホーテ』と『ハムレット･マシーン』を観る。
車の運転は、往きmacchaさん、復り私。1時間強の運転も、片道だけだと楽だ。
『ドン･キホーテ』
原作 ミゲル･デ･セルバンテス･サアベドラ(1547-1616)
演出･脚本 原田一樹
脚本 北村宗介(共同)
出演 三島景太,吉見亮,本多麻紀,大桑茜,中谷智邦,舘野百代,貴島豪 他
グランシップの静岡芸術劇場にて
『ハムレット･マシーン』
原作 ハイナー･ミュラー(1929-95)
演出･構成 大岡淳
音楽 河崎淳(作曲とコントラバス)チェ･ジェルチョル(韓国打楽器)
出演 地元中高生を中心に
舞台芸術公園稽古場塔”BOXシアター”にて
『ドン･キホーテ』は実に面白かった。
舞台と人物表現両方に複層性があって、真実が何処にあるのか判らなくなる。
ドン･キホーテは実在の人物ではない。アロンソ･キハーナという老人の登場人物が自分の書物の中に創り出した人物で、しかも、その人物になり切って騎士道実現の遍歴に出る。サンチョ･パンサを引き連れ、ロシナンテに乗って。
しかも、後半においては、その書物は世に出版され、登場人物達はそれを既に読んだ上でキホーテと接している。
つまり物語が物語を新たに生み出す構造を創り出している。
最後の場において、それらの多層性が一気に舞台に噴出する。
キホーテとキハーナの関係は浸潤してよく見分けられなくなる。遍歴して疲れて帰ったキホーテの夢、(心の？)病の床のキハーナの妄想、回りの人物達の目に映ったキハーナもしくはキホーテという人物、一体何処に実体があるのか。
舞台最奥に糸操りの人形の小さな舞台が引き込まれる、糸にぶら下がっているのはキホーテか。
その小舞台の枠組と同じものが、ステージ中程に大きくぐるりと設えられ、その中で登場人物達は動き回り叫んでいたのだ。
そして、その更に外側、客席寄りの上部に、枠組を象徴するかけらがぶら下がっている。ひょっとしたら、これは最初からあったものだったのか、私が気付かなかっただけか。
この最前部の枠の中に、この舞台を観る客達全員も、呑み込まれてしまっているように思えだす。劇というフィクションの中に自分も入り込んでいるような・・・そんな感じ。
すると、目の前の登場人物達の中の何処かに私もいる、そんな気がしだした。
そう思ったら、ドン･キホーテという人物が一気に切なく愛おしくなって、涙が出そうになった。
真ん中でその複層性の芯をこなす三島景太の演技の強さがそこにあったのは言う迄もない。素晴らしい役者だと改めて思った。
夏にここで観た『ロビンソンとクルーソー』でも、彼が主役を演じていた。以下参。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=903811394&owner_id=3341406
念の為記しておくが、この舞台は、原作の『ドン･キホーテ』そのものとはかなり違う。
場所を日本平に変えて、『ハムレット･マシーン』。
この僅か数ページの戯曲は、当時東ドイツという社会主義国家にあってミュラーが創作したものだが、出版も上演もされず、しかし、西側では衝撃的に迎えられた。
“共産主義体制下の特権階級に属する知識人の葛藤を、ハムレットの苦悩に重ね合わせ”る、というのが本来の狙い。
それを元に、東西の垣根がなくなり、資本主義の病的に膨れ上がった現代という時代に、大岡は自由に移し替えている。
“マシーン”とは何か。
如何にも悩む知識人を表わし、つまり、自由であるから人は自分というものを根拠に悩むのであって、自由人の象徴として表現されてきた筈のハムレットを、その悩みも含めてマシーンと括ったのである。機械には勿論己の意志はない。意志のないところに自由等ある訳もない。
複雑化し肥大化し、とうに個人の意思では何とも動かしようのなくなった世の中という事を考えれば、既に共産主義も資本主義もない。
私達は、途方もない何かに知らぬ内に働かされる1歯車でしかない。
これが、『ハムレット･マシーン』を現代に上演する意味である(と私は思う)。
音楽はコントラバスと韓国の打楽器のみ。
この組み合わせで紡ぎ出される、時代も東西もない音楽が、狭い稽古場(収容人員は70〜80人位か)という場所で実に迫力がある。
それに乗せられて、地元の中高生(1人だけ大人が含まれる)達が、楽しく、明るく、踊り、蠢き、しゃべり、騒ぐ。
しかし、彼等の動きが明るい程、時代の閉塞性は暗くのしかかる。
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