8/27(水)、ヴェルディのオペラ『マクベス』(原作シェークスピア)をCDで聴く。
『マクベス』は一度S先生のレッスンでハイライト版を観た。
リリアーナ･カヴァーニの演出で、ブルーノ･バルトレッティ指揮のパルマ歌劇場、2006年のライブ収録だった。スカイパーフェクTVで放映されたものだと思う。
歌手はマクベスをレオ･ヌッチ(br)、マクベス夫人をシルヴィー･ヴァレール(s)、バンクォーをエンリコ･イオリ(b)。
その時、日記にどう書いたか。
・・・初演の評価が悪く、ヴェルディは特に後半の手直しを行った。そこが表面的な音楽になってしまったきらいがある。
カヴァーニの演出意図の延長だろう、観客の席が舞台の上に迄設えられている。悪魔は誰の心にもあるスキを狙って入り込んでくる。特別な人、特別な環境下ではない。舞台を生活から乖離させた特別な場所としたくない、そんな思いの表れではなかったろうか・・・
(‘08年6/2の日記→
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=825262657&owner_id=3341406)
読み返すと、最初の1行、浅い解釈で思いつきの内容に赤面する。
今回の鑑賞はCDだから、勿論映像はない。
指揮 ジュゼッペ･シノーポリ
演奏 ベルリン･ドイツ･オペラ管弦楽団
歌手
マクベス レナート･ブルゾーン(br)
マクベス夫人 マーラ･ザンピエーリ(s)
バンクォー ロバート･ロイド(b)
1983年録音
あの1行から出発して、では、ヴェルディはどう手直しをしたのか、そこに集中して今回は鑑賞した次第である。
まず1947年の初演の評価だが、”不評”という程ではない、好評だったが長続きしなかったと言うべきだろうか。
当時のイタリアは諸外国の支配によって分断されており、統一に向けた愛国心が庶民の間に強く燃え上がった時期である。当時のイタリア統一運動を”リソルジメント”と呼んでいる。
『ナブッコ』や『ロンバルディ』でデビューしたヴェルディであるから、その愛国心に訴える作品のコンポーザーとして、初期の人気は偏りがあったと言っていいだろう。
この作品にもそういう場は部分的にあるが、テーマは、シェークスピア作品であるから、やはり人間の心理である。初演で一般に受けた要素と、ヴェルディの狙った要素には、もともと擦れ違いがあったのだ。
さて、18年後の1965年、パリで同オペラの初演が決まった。パリでオペラを成功させる事は、当時のヨーロッパで不動の評価を得る事であったから、ヴェルディに限らず多くの作曲がしたのと同じように、彼もパリ聴衆向けの改定に取りかかった。
1つは定石通り、台詞をフランス語訳する事と、バレエシーンを入れる事。フランスのグランド･オペラでは、バレエが入っている事は必要条件だった。あのワグナーでさえ『タンホイザー』でバレエを挟み込んだ。
3幕の中間部に約10分ものバレエシーンをヴェルディも入れた。(現代の演出では、この部分、外される事もある。)
そしてもう1つは、ヴェルディがその後、『リゴレット』を経、『椿姫』を経、18年の間で成功を積み重ね、オペラの世界を拡大してきた部分は、内面表現の緻密さ、濃密さ、と言ったところである。この要素で、ヴェルディは、画一的で紋切り型のオペラから、はるかな深化を遂げた。
そんなヴェルディが、この機会に、特に敬愛してやまないシェークスピア劇において、その要素を加えたいと思ったのも無理はない。彼のオペラ人生のラストは『オテロ』であり、『ファルスタッフ』である。人間心理表現の浅いシェークスピア劇にどんな価値があるだろうか。(念の為だが、これはヴェルディの言葉ではない、私の想像に過ぎない事を付け足しておく。)
結局、バレエ以外でおおよそ5箇所の改定を行った。
��1幕1場、魔女達の合唱の追加
��2幕1場、夫人のアリア「光は衰え」の心理描写の深化
��3幕、幻影出現のシーンの怪奇性
��4幕4場、戦闘の2重フーガの拡大
�イ修梁�
・・・こんなところである。
基本構想迄は勿論やり直してはいない。そこ迄やったら、新しいオペラを作るに等しい。
ところが、このパリ改定版上演は大失敗に終わるのだから、この世界は判らない。
感情表現の深さは、一般聴衆には判りにくく聴こえたのだろう。幻想性の拡がりも同様。
逆に言えば、紋切り型の決まり切った展開や大見得の方が、彼らには判り易かったのかもしれない。
内面表現の為に、旧来のナンバー･オペラに比べると、かなり自由な変化をきたしているところ、これ等はメリハリのなさに通じかねない危険性も確かに孕んでいる。
しかし、ヴェルディはこの評価で自分の行き方を変える事はなかった。
そして『ドン･カルロ』を作り、『アイーダ』『オテロ』『ファルスタッフ』と進むのである。
『オテロ』を深く愉しんだ耳で『マクベス』を聴くと、少しアンバランスが感じられる。
このアンバランス感は、『マクベス』に若い時のヴェルディと後のヴェルディが混じっているからだと思える。
一部のメロディや造りが軽薄に聴こえてしまったり、前時代のベル･カント･オペラの名残りのように聴こえてしまったりするのは、この混淆の所為で、もっぱら若書きの部分が、比較されてそう聴こえてしまうのではないか、という気がするのである。
前の日記で書いたように、評価を気にして後に書き直した部分が表面的な音楽になってしまった、のではないのだ。
全般的な印象で物申すのでなく、どこをどのように書き直したのか、具体的に当たって、その意味を把握した上で発言しなければいけない。
反省頻りだ。
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