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2024年11月30日10:52

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401冊目『同志少女よ、敵を撃て』

逢坂 冬馬 (著)

あ行の書架に入って0.5秒、背表紙が視界に入った瞬間、史上最速即決。
書店での平積みも記憶に新しい、あの本屋大賞受賞作が遂に読めるッ!!

舞台は第二次世界大戦東部戦線、女性のみで編成された狙撃部隊の戦いを描く。

これが本屋大賞ッ!?しかもデビュー作だとッ!?!?
マジで驚かされました。
だってゴリゴリのミリタリーものなんだもん。
あらゆるジャンルの中でもかなり読者を選ぶ方だと思いますけど、特に女性はドンパチ大嫌いでしょうに。
独ソ戦という人類史上最悪の戦争を描いた陰鬱な作品が、本屋大賞獲っちゃうんだみたいな。
読んで納得、圧巻の内容。デビュー作でこれなら次回作どうすんの?と心配になるレベル。
物語としての完成度は相当なもの、正直ツッコミどころは殆どありません。
だもんで、ストーリー以外の搦め手から攻めさせていただこうかなと。

独ソ戦(東部戦線)の激烈な戦闘描写、女性主人公、思想信条の狂信者がスパイスといえば思い出されるのがあの作品。
251冊目『鋼鉄のワルキューレ ケーニヒスティーガーin WW2東部戦線』
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1967857148&owner_id=263792

似たようなシチュエーションでありながらアマゾンレビュー数その差何と、5734:8 ッ!!
じゃあ、「同志少女」が「ワルキューレ」の七百倍面白いかといえばそんなことはありません。
水樹ケイ先生もさぞ無念なことでしょう。
小説に限らずあらゆるエンタメにいえることですが、作品の質と売り上げは必ずしも正比例に非ずといったところ。
運やマーケティング、多分その他様々な要素もあるんでしょう。
小説を四百冊も読んでると、もっと評価されてもいいのにという作品に出会う度、何とももどかしい気持ちになります。

さてと。
ではこの二作、何が違うのか?「ワルキューレ」でもちょこっと書きましたが、ズバリッ“間口の広さ”ではないでしょうか。
狙撃か戦車戦か。
「同志少女」で専ら描かれるのは戦う動機、スナイパーの心理描写。
片や「ワルキューレ」は戦車という兵器の魅力。
軍事マニアではない一般の読者に、どちらが刺さるかは言うまでもないこと。

戦車?鉄の塊なんかに興味ないってか、喝だッ喝ッ!!
当時各国最高の技術者たちが、与えられたリソースの中で創意工夫の限りを尽くし生み出した究極の工業製品、それが兵器なんです。
惹かれないわけないでしょっつーの。
でもこんな↑蘊蓄、一般読者層には全く響かないですよ水樹先生(哀)

間口激狭のミリタリーというジャンルにあって、描かれるのは濃厚な人間ドラマ。
ブルーオーシャンでの逢坂無双、まさにマーケティングの教科書かの如き戦術、天晴也。
そうなんです。人間ドラマであり、人を殺す行為の心理描写であり、少女が何故戦うのかという物語なんです。
ここに「狙撃」という要素がガッチリ嵌ってくる妙。
今作を読んで改めて実感したのは、狙撃が数ある戦闘行為の中でも最も純粋な殺人であるということ。
迫りくる敵を機関銃で薙ぎ倒すのとは違う感触。
増してや砲撃や爆撃ならば、自分が殺すであろう敵の顔どころか姿さえ見えません。
スコープの十字に捉えられた無防備な人間を、明確な殺意のもと引鉄を引き殺害する。
この殺意を認識する圧倒的濃度。
常人はこの圧に耐えられません。現に主人公「セラフィマ」の母は、この殺意を拒絶する人間性により命を落とします。
狙撃兵として熟練するほどに人間性が失われていくという現実。
引鉄を引くたび殺人を再認識しなければならない狙撃兵の宿命。
歩兵や戦車兵など、他のどの兵科とも異なる狙撃兵の独特さがこれでもかと強調されます。
この深い心理描写が読者を狙撃小隊の一員として、物語の中に取り込んでいきます。

作品の中盤を占めるのは有名な「スターリングラードの戦い」
瓦礫で覆われた都市はまさに狙撃兵の独壇場。
速成の訓練を終えたセラフィマたち女性兵士で編成された狙撃小隊は、初陣でこの地獄に投入されます。
年端もいかない少女を戦闘員として戦場に送り出す。
この一事を以てしても、如何にソ連という国家が当時追い詰められていて、且つ異常だったかが解ります。
まさに究極の男女平等。
あのキングオブブラック大日本帝国陸軍でさえ、女性兵士は存在していません。
兎に角、独ソ戦の異質さ残虐さ被害の規模は、第二次世界大戦中でも際立っています。
国家社会主義と共産主義という思想の狂信者たちによる果てしない殺し合い。
アインザッツグルッペン(敵性分子虐殺部隊)、逃げる味方を容赦なく後ろから撃ち殺す督戦隊、部隊内の思想信条を調査し、共産主義に反する者を排除するNKVDなど戦闘に勝つための殺人ではなく、殺すことそれ自体が目的である部隊の存在。
太平洋や西部戦線でも血生臭い話はいくらでもありますが、やはり東部戦線の残虐さは群を抜いてます。
これら戦場で繰り返されるありとあらゆる残虐行為が、フィルターを通さず読者へ叩き付けられる辛い読書になるわけですが、、、
戦場の実態、人間の闇、歴史の真実をこれでもかと描いて、よくもまあこんだけ一般層の支持を得られたもんだなと感心しきり。
もっとポップで軽いノリだとナメてました本屋大賞、ゴメンナサイ。

当然ながら重苦しいだけじゃありません、キャッチーさも随所に。
特筆すべきは、狙撃戦の複雑多岐さ。
殺人の再認識という精神面じゃなくて、如何に敵の裏をかくかという心理戦の面白さ。
裏の裏をかいて表に出ちゃったっつーパターンもありありの騙し合いは、読み応え充分。
実は今作、アガサ・クリスティー賞も受賞してるとか。
はッ!?ミステリーじゃないじゃんって思うでしょ、ハイハイ俺も思いました。
実は敵の狙撃兵を罠にかける様々なトリックが、薄っすらミステリー臭を醸し出しとるんですよコレが。
さらに母の仇である独軍狙撃兵「ハンス・イェーガー」との最後の一騎打ちでは、ちょっとした謎解きにも挑戦することになります。
射撃能力、地形を見越してのポジション取り、擬装や先に発砲させる諸々のテクニック、銃やスコープなど装備の差、、、そして運。
あらゆる要素が渦巻きながら紙一重で決まる勝敗、分かたれる生と死。
いやぁ〜〜この緊張感たるや堪りません。

重苦しい歴史の真実と狙撃戦の醍醐味、それからもう一つ今作の根幹をなす重要なテーマがありまして。
それが女性の尊厳です。
戦争という巨大な暴力から如何にして女性たちを守るのか。
戦場で、独ソ問わず両軍の兵士から凌辱される女性たち。
セラフィマはドイツ人ロシア人に関わらず彼女たちを守ることを誓います。
「同志少女よ、敵を撃て」
敵、真の敵とは何なのか?
この決意がある事件を引き起こしますが、その顛末に些かしこりを感じた次第。
セラフィマは理不尽に行使される暴力に対し、断固武力で反撃します。
作中でも描かれた通り悲しい哉、愛や正義では暴力は抑えられません。
理不尽に行使される暴力に対し平和主義は無力。

、、、、、、。

逢坂先生、セラフィマには武力行使させるくせに、日本国には認めてくれないんだみたいな。
現実で日本国に理想論を強いるならば、作中セラフィマにも姑息な偽装工作などさせず、軍事法廷で堂々と正義を主張させるべきでは?

、、、、、、。

サーセン、豪快に脱線(ネタバレも)してますけど、ついでにもう一つ。

巻末の選評で法月綸太郎先生が、
>敵味方・男女といった単純な二分法ではなく、
と述べられてますが、俺は男女の二分についてはかなり感じました。
確かに敵味方、独ソのバランスは非常に取れてます。
史実や戦争を、作家個人の価値観で善悪に分けるような傲慢さは見受けられませんでした。
しかし男女間の断絶はエグいです。
そもそも歴史上殆どの戦争は男たちが勝手に始めたもので、女性たちは常に巻き込まれた被害者という厳然たる事実があるわけで。
しかしその事実を踏まえて尚今作は、殊更執拗に男性キャラクターを醜悪に描き、男女間の対立を煽ってるかのような印象を受けました。
ぶっちゃけ「ミハイル」の件いるか???
マジで胸糞悪いったらありゃしねぇッ!!
でも、それが戦争を描くということなんでしょう。
スターリングラードの守備陣地隊長「マクシム」が唯一家庭的な人物で、その他の男性キャラは基本外道設定。
仇役のハンスをもっときちんと作り込んで、女/男・善/悪・美/醜という解り易い二元論に落とし込むのではなく、セラフィマの女性の尊厳に対し、盲目的な愛国心や軍人としての愚直さで対立させれば、男女間の葛藤をより際立たせられたのでは。
女たらしで自己保身だけのクズじゃ、凄腕が泣きます。
っつーか逢坂先生、ミサンドリーじゃないよね?

、、、、、、。

いかんいかん、また俺のリベラルアレルギー発作が出てもうた。
まあね、お話が完璧なんで、本筋以外重箱の隅しか突っ込むとこなかったんですよ。
勿論、作家さんが作品にどんな考え方を盛り込もうが自由。
と同時に、読者がどんな感想を抱こうがこれまた自由。
今作に込められたエネルギーが俺の本音を引き摺り出したみたい、御無礼は平に、、、

独ソ戦の激戦地でもあったウクライナでは、今も激しい戦闘が続いています。
何故戦争が起こるのか、何故世界から暴力を根絶できないのか。
平和ボケの日本で今作が本屋大賞を受賞し、数多くの読者が史実の一端に触れたことは非常に有意義なことだと思います。


『Enemy at the Gates』また観たくなりました
★★★☆☆
1 1

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