養老孟司「自分は死なないと思っているヒトへ」2023年11月大和文庫
昨日、久しぶりに新宿の紀伊国屋書店に行きましたら、養老先生の最新刊が3冊も
並んでいて、驚きました。
世の中が、養老先生の知恵を求めていて、養老先生も、求められれば応えられる
ので、出版の依頼は、引も切らないようです。
私は、養老先生に私淑して、刊行された本の半分くらいは目を通してきましたが、
最近は、とても追いつきません。ただ、養老節はもう出し尽くした感があるのと、
最近は、YouTubeで、養老先生の講演を聴いたりして、やりすごしています。
本書は、養老先生が、東大を退官してから数年間で、あちこちで講演した内容の
記録とのことで、単行本としては2006年に刊行されており、今回、文庫の新装版
として刊行されたとのことです。
帯の文言が、刺激的でしたので、まず、引用しますね。
”「がんだ」と告げられても、臆せず生きられますか。”
”うそっぱちの「現実」を出て、自分の「生」を取り戻す。ゆとりの重要性を説く人間論”
惹句も引用します。
”数値化できないものまで数字で示し、明瞭な目的に向かって、できるだけ合理的、
効率的、経済的に生きる現代人。物事を「頭」で捉えれば捉えるほど、「生」の実感
からは遠ざかる。”
”現実を直視し、よりよく生きるために本当に必要なものはなにか?わたしたちを
がんじがらめにする社会の仕組みに切り込む。”
目次と小見出しの抜粋も紹介しましょう。
第1章 愚かになる人間
「極楽」に生きる
・家から死を締めだす
・ひたすらおとぎ話をつくってきた
「世間」を出る
・さわらないようにしてきた問題
・日本共同体のルール
第2章 肥大する現在
「時間」病
・人体という自然
・「人間のつくったものは信用するな」
「知」の毒
・「仕方がない」が消えた
・死は異常な出来事か
カチンカチンの世界
「自分」知らず
・人は日々変わりつづける
・自己もまた諸行無常の中
「生死」のブラックボックス
・二人称の死体、三人称の死体
・心の中から失われていくもの
第4章 手入れの思想
「世界」の行きつくところ
・意識ほどあてにならないものはない
・ハエさえつくれない人間の錯覚
「日本人」の生き方
・都会人の運命
・人間は無意識のほうが大きい
養老先生はあとがきで言います。
”本書の全体を通底する主題は「死」である。最近口を突いて出るのはmemento mori
ということばだが、これには対句があって carpe diem と続く。”
”死を想え、今日を生きよ。私が幸せだったと感じるのは、仕事がいつも memento
Mori だったのが退官でいったん終わって、その後の人生をまさに「生きる」
しかなかったことである。”
人間は、どうしたら幸せに生きることができるか。
これは、私の読書の大切なテーマのひとつでもありますが、養老先生の本を読んで
きて、ひとつの答に出会った気がしています。
それは、自分というものは、意識で完全に統御することはできない「自然物」でも
あるので、あまり意識であれこれ考えすぎず、生命の奥底から溢れ出る実感を、信頼
して生ききる、ということではないかと思っています。
養老先生は、ご自分でも言っていますが、自分の考えてきたことは、仏教のお経にすべて
書いてあるのに気づいた、ということで、私も、養老先生のYouTubeなどでの言葉を
お経のように聴くと、心が落ち着いてきます。(笑)
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