mixiユーザー(id:263792)

2023年09月16日08:54

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376冊目『黒牢城』

米澤穂信著

「有岡城の戦い」ですね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%89%E5%B2%A1%E5%9F%8E%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84

織田の大軍に囲まれ息が詰まる城内で、次々と巻き起こる怪事件。
城主「荒木村重」の元、懸命の調査が行われるも謎は深まるばかり。
このまま捨て置けば、織田軍の攻撃を待たずして城は内部から崩壊する。
村重は不本意ながらも、地下の土牢に幽閉されている“あの男”の知恵を借りることになるのだが、、、

オイオイオイッ『羊たちの沈黙』じゃん。
まんま、クラリス・・・荒木村重、レクター博士・・・黒田官兵衛なんですけど。
初めて土牢訪ねるシーンで、まざまざと映像が蘇ったわw

、、、閑話休題

さて本題の感想ですが、素晴らしかったッ!!
一言で言うなら「良く出来てる」、これに尽きます。

面白かったけどココがイマイチみたいな、いつものお約束パターンによる感想文展開が出来ないぐらい付け入るスキがありません。
ストーリー、キャラクター、ミステリーの整合性、全てがハイレベル。
その守りの堅さ、まさに有岡城の如し。

そして今作で特に舌を巻いたのが、そのディティール。
長期籠城下での戦闘が行われていないときの城内の様子、大軍に包囲され援軍が望めない状況に於ける将兵の心理状態の変化、一向宗や戦国期のキリスト教の宗教蘊蓄、茶人大名村重の茶の湯に対する強い拘り等々、籠城内の精緻な描写が心憎いほど戦国ファンの琴線に触れて来ます。
主人公村重と完全シンクロ、まるで読者も有岡城に籠城してるかの様な臨場感。

正直申しますと、あんま期待せずに読み初めまして。
やっぱ米澤先生と言えば青春ミステリですから。その軽快なイメージに引っ張られてました。
今作も歴史小説とは銘打っているものの、お得意のミステリーに引き込んで歴史部分はオマケなんじゃないの?みたいな。

「先生の持つ歴史小説に賭ける心根、見損なっていたことを今ハッキリと認める...!」

何という愚かな決め付けであったろうか、、、米澤先生、本当に申し訳ありませんでした。
青春ミステリのあの軽やかなイメージは皆無、とても歴史小説初挑戦とは思えません。
村重や官兵衛は勿論、端役モブに至るまで徹底的に作り込まれてます。
戦国には一家言ある俺も全く違和感無し、ストンと感情移入出来ました。
文体は重厚にして台詞回しも厳か、久々に声に出して読みたい日本語状態w
その分、難読漢字多めでやや読み辛いですが。
っつーか、歴史小説で読み易いって、甘口カレーみたいなもんでしょ。
歴史上本当に起きたことを題材に採るからには、ある程度の重厚感、リアリティは必須。

そしてキャラクターですよ、ホントに素晴らしかった。
「荒木村重」、ちょっと好きになりましたもん。
圧倒的分量で描かれる村重の心理描写はまさに今作の肝。
摂津一国を束ねる大名とはいえ、村重も人の子、刻々と悪化していく戦況に精神を蝕まれていく様は何とも憐憫を誘います。
敗色濃厚な籠城戦、それでも一万超の将兵と民衆の希望の星であり続けなければならない重責。
配下の派閥争いに気を揉みつつ、気が利かない部下に苛立ちながらも教え諭し、続発する怪事件を颯爽と(官兵衛の入れ知恵で)解決。
いやぁ〜理想の上司じゃないですか村重。
この村重の気遣いをね、十分の一でもいいから信長に分けてあげたいわ、マジで。
史実なんで、ネタバレでも何でもないんですが、最終的には有岡城から逃げ出すわけで。
これ程の漢が武将としてあの様な醜態を晒すことになろうとは、返す返すも無念だったことでしょう。
その後、御伽衆として秀吉に仕えてたとき、官兵衛と再会したんですかね?
大坂城の廊下でバッタリ出くわしたりしたら、気まずいなんてもんじゃないと思うけど。

さてもう一人の主人公、「黒田官兵衛」もイイ味出してます。
出番は少ないながらその存在感は圧倒的。
勿論、元々極上の素材ですからそこそこ読ませるとは予想してましたが、まさかここまでの凄みを出してくるとは、、、
天才軍師「黒田官兵衛」と「ミステリー」、相性良過ぎ。
そして「有岡城」という巨大な密室。
まるで歴史が予め、米澤先生のために素材を用意してくれてたかの如き天の采配。
この着眼点、歴史上このポイントに的を絞った時点で、今作の勝ちは既に確定していたのかもしれません。
絶対に勝てる戦略目標の設定、そこに至るまでの知識の蓄積と歴史的裏付け、そしてそれらを文章として纏め上げる筆力。
まさに“今官兵衛” 、作家「米澤穂信」の集大成がこの『黒牢城』なんですッ!!

有岡城で起こる四つの怪事件を解決していく短編連作なんですけど、短編では絶対発生する所謂「当たりハズレ問題」も今作とは無縁。
戦国時代にミステリーを落とし込むにあたって、犯人の動機やトリックの整合性など突っ込み所はいくらでもありそうなんですが、サラリと上手く躱してます。
強いて突っ込むなら、地下の土牢から話を聴いただけで事件を解決に導く官兵衛がチート過ぎるってトコぐらいでしょうかw

ホントに「良く出来てる」、この一言に尽きます。
批判するところが無い、防御力という点では過去最高クラスの作品かも。
では俺なりの攻撃力の指標である、純粋な面白さや斬新さ、泣ける感動の度合いはどうか?
文句無しに面白いし、戦国ミステリというジャンルも初体験、ウルッとする場面も数か所あります。
特に茶室で、関係者と一対一の事情聴取シーンは必見。
頑なに口を閉ざす関係者の心を如何に解すか、まさに茶人大名村重の面目躍如。
ここに、茶道の神髄、更には対人関係の妙諦を垣間見たとするは過言であろうか。

それから村重側近の御前衆筆頭、今作のワトソン役でもある「郡十右衛門」の忠義。
裏切り策謀渦巻く城内にあってその献身振りたるや、影のMVPと言っても良いんじゃないでしょうか。
読了後wikiで補完しましたが、有岡落城後の人生も波乱万丈、彼主人公で一作やれそうなぐらいのポテンシャル。

最期に「松寿丸」ね、もう戦国詳しい方には皆まで言わずともお解りでしょうが、怪物レクター官兵衛が最後に見せる人間性ですよ。

惜しいッ、落涙寸前で踏みとどまりました。
この茶室と忠義と松寿丸で、もし号泣まで押し上げられてたら、鉄壁の四つ星防衛線も抜かれてたかもしれません。危ねぇ危ねぇ。
俺の有岡城である五つ星が、そうそう易々と獲られてなるものかッ!!ってね。


年末、直木賞同士の矛盾対決お楽しみに♪
★★★★☆
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