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2022年11月16日18:40

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映画『秘密の森の、その向こう』セリーヌ・シアマ

11/15(火)、シネマイーラ浜松で『秘密の森の、その向こう』を観る。
フォト

女性監督セリーヌ・シアマ(1978- /仏)の2021年最新作である。
シアマは『燃ゆる女の肖像』(2019)でカンヌ国際映画祭の脚本賞とクィア・パルム賞を受賞し、世界にその名が知られる事となった。
私は2021年2月に観て、心が震わされた記憶がある。
以下参。
 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1978396390&owner_id=3341406
同作も自身で脚本を書いていたが、今回も同様である。
思春期以前の子供の心の裡をテーマにしたファンタジーではあるが、不思議なリアリティがあり、心に迫る。

冒頭、8歳の少女ネリーは病院の各部屋を訪れ、老いた入院患者達に「さよなら」と言って回る。
ここに入院していた大好きな祖母が亡くなってしまい、もうこの病院にくる事もない。とすれば、近い部屋で仲好くなった彼等彼女等にもう会う事もないかもしれないという思いがある。
そして、それ以上に、亡くなる祖母にしっかり別れの会話ができなかった事にネリーは悔いがあるようだ。
この取り返せない気持ちは映画を通底し、物語を生成する。

ネリーは両親と伴に、森の中に佇む祖母の家を訪れる、残された物を整理するためだ。
母マリオンはここで祖母と長い時間を伴にしたから、懐かしいものがたくさんあって胸を締め付けられ、片付けがなかなか進まない。ネリーは母の気持ちがよく分かり、逆に彼女を慰める。

翌朝起きると、父から、母が出ていってしまった事を知らされる。
ネリーは訊きたい事もあるが、父を問い詰めない。
しばらくして落ち着いたら母は帰ってくるに違いない、そう自分に言い聞かせた。

父が片付けを続ける中、ネリーは家を出て秋の深まる裏手の森を散歩した。
以前母から、この森に小さな家を作って遊んだ事を聞いていた。
森を奥へと入っていくと、1人の少女が枯れ枝を運んでいるのが見えた。
向こうも気付いたと見えて、ネリーに手を振る。
同じ年頃でネリーによく似たその少女に「手伝って」と言われ、一緒に枝を運んでいくと、森の中程に枝を立てかけて拵えた小さな家があった。
名前を訊くと少女は「マリオン」と答えた。

雷雨がやってきて、マリオンは走ってネリーを自分の家に連れていった。
その家は、祖母のそれとそっくりだった。間取りも同じらしく、隠し扉も同じ場所にある。
隣の部屋には、昨日母が見つけて心を痛めていたのと同じノートがあり、その表紙には確かに「マリオン」と書いてあった。
偶然にしては…
別の部屋ではマリオンの母かと思われる女性が向こうむきでベッドに寝ていた。
ネリーは驚いて、森を突っ切り祖母の家に走って帰った。
そこにはちゃんと祖母の家があり、父が片付けを続けていた。

翌日もネリーは森の奥の小さな家に出かけて行った。
歳を訊くと、マリオンは8歳と答えた。同い年で、体格好も顔も2人はよく似ている。
ネリーには内心感じるものがある。
マリオンの家に行って2人で遊んでいると、彼女の母親がやってきた。昨日ベッドで寝ていた人だ。手には杖、脚が悪そうだ。ネリーの祖母も脚が悪く、杖の助けを借りていた。
3日後は手術なのだから勝手に外に出かけてはいけない、そうマリオンの母親はたしなめる、今のうちに手術をしないと、私のような脚になるのよ、と。

翌日もネリーはマリオンの家に行って遊んだ。
ネリーがママが出ていってしまったと弱音を吐くと、マリオンは絶対戻ってくると励ます。
マリオンが手術が怖いと泣くと、ネリーは大丈夫だとマリオンを慰める。大丈夫と言うには訳がある。
短い時間で2人の間には固い絆ができた。
マリオンはネリーに明日は泊まりにきてと誘い、ネリーは必ずと約束する。

森を越えて祖母の家に戻ると、父は、片付けが早く済んだから明日帰ろうと言う。ママの誕生日にも間に合う。
ネリーがマリオンと約束があるから明日はダメだと言うと、父は、「それはまた今度でいいだろう」と。
ネリーは「今度はないの」といつにない顔で主張をした。
父に説明はできないが、ネリーには思い当たる節がある。

次の日には森の小さな家が完成し、2人は喜び合った。
フォト

ネリーは思い切って打ち明ける、私はあなたの子どもなの。
マリオンは驚きもせずに訊く、未来から来たの?
ネリー、ううん、森の向うから。

夜はマリオンの誕生日祝い。2人で料理をしたり劇をして楽しんだ。子どもらしい表情だ。
翌日は湖にでかけ、ゴムボートを漕いで沖の”ピラミッド”に行ってみる。2人には大冒険だった。
次の日の朝、マリオンは手術を受けるため母親の運転する車に乗って病院に向かう。
ネリーは、ドアの外からマリオンと彼女の母親(つまりネリーの祖母)にさようならと言って2人を見送った。
「今度はない」かもしれない朝、この前言えなかった別れの言葉をしっかりと言う事ができて、ネリーはほっとした。

森を越えて祖母の家に帰ると、ネリーの母親が戻ってきていた。
ネリーは母親を「マリオン」と呼んだ。
娘を置いていった事にわだかまりを感じていた母親だが、そう呼ばれて笑顔が戻った。

原題は『Petite Maman』。
そのままでも良かった。


監督・脚本・衣装 セリーヌ・シアマ
撮影 クレール・マトン
美術 ライオネル・ブライソン
音楽 ジャン=バティスト・ドゥ・ロビエ
編集 ジュリアン・ラシュレー

出演 ジョセフィーヌ・サンス(*),ガブリエル・サンス(*),ニナ・ミュリス,ステファン・ヴァルペンヌ

(*)8歳のネリーとマリオンを演じたのは双子の実の姉妹。これが映画初出演。
子どもであるにも関わらず、時にミステリアスな憂いのある表情を見せる。

受賞 サンセバスチャン国際映画祭観客賞,ストックホルム国際映画祭国際批評家連盟賞,ロサンゼルス批評家協会賞外国語映画賞 他

2021年/フランス
 
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