mixiユーザー(id:263792)

2020年09月12日15:39

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307冊目『Blue』

葉真中顕著

平成十五年に青梅で発生した一家惨殺事件。
平成三十一年に多摩ニュータウンで発生した男女二名殺害事件。
一見何の関わりもない二つの事件が青い池の写真で結びつくとき、かつて「Blue」と呼ばれた男の壮絶な人生が浮かび上がる。

猛烈な既読感。
完全なる『絶叫』→208 路線。
https://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=263792&id=1956736457

あの女刑事も再登場。
葉真中ファンには嬉しい仕掛けだが、俺的には一個の完全に独立した作品として出会いたかったので、他作品との関連は痛し痒し。
件の奥貫刑事等が事件の関係者を事情聴取しながら、それに伴い平成時代の流行風俗、社会問題をねじ込んでくるという趣向。

「平成」という時代。
戦争と高度経済成長期というまさに激動の昭和からの平成。
バブル崩壊から始まった閉塞と停滞の時代。
あらゆる価値観が多様化し細分化した結果、個人の自由は拡大されたが、家族や地域などの共同体、日本という国がバラバラに分断された時代。
近くて遠い、短くて長い三十年間。
俺も高校卒業〜就職上京〜退職〜プータロー〜劇団活動とホントに色々あった時代なんでね、作中登場人物の平成を振り返る証言に当時のことがまざまざと甦りましたよ。

流行風俗関連では、コギャル・チーマー・アムラー・連発されるミリオンセラー・たまごっち・各種ゲームハード等々、どう?俺等の同世代は懐かしくて堪らんでしょ。
そして一億総中流が崩れ、じわじわと貧困が忍び寄る中、顕在化した社会問題の数々。
バブル崩壊後の平成不況・竹中構造改革による格差拡大・オレオレ詐欺・児童虐待・出稼ぎ外国人の差別と犯罪。
暗い世相に追い打ちをかけるように発生した二度の大震災と未曾有の大規模テロ事件。

こうやって振り返ってみると、明治維新や敗戦には及ばないまでも日本という国にとって平成という時代が一大変革期だったことが窺えます。
皆さんにとって平成とはどういう時代でした?
っつーわけで、平成に人生の最盛期を過ごした四十代〜五十代の方に強くお薦めしたい。
二十代の若者や高齢者が読んだときよりも数倍の感動があると思います。

今作の主人公「Blue」もこの平成という時代を駆け抜けるのですが、貧困という落とし穴に嵌まってしまうわけです。
貧困に人生を狂わされるということは、悲しい哉そんなに珍しいことではありません。
でもね、国や地域社会、家族や友人、周囲の人間たちがもう少し、もう少しだけでも優しければという気持ちは拭いきれない。
しかし先述した通り、この人間関係の共同体がバラバラに解体されたのも平成の特徴でもあるわけで。
ましてや「Blue」は自己責任など微塵もない子供、親の非常識を背負わされただけの被害者なのだから何ともやるせない。
結局は更生の機会も与えられず、その流れのままに闇の世界へ吸い寄せられていく。
違法な仕事に手を染めながら、人生初めて心を許せる友と暮らし、心の平穏を得るという皮肉。
そして「Blue」の犯す違法行為に救われる人々がいるというパラドックス。

何が正しくて何が悪なのか?
「Blue」のような不幸な弱者が救われないのは誰の所為?
社会が悪いのか、政治が無能なのか、はたまた時代の所為なのか。
皆さんそれぞれ様々な意見があると思います。
あらゆる要因が複雑に絡み合って、誰が悪いこれが駄目だったと明確に特定出来ないこともあるでしょう。
当時はベストな選択と信じていても、後々思わぬ副作用を起こした問題もあるかもしれません。
そういう意味では蛇足、且つ作品自体の感想からはズレますが、敢えて直言させていただきたい。

作中きってのクズ、外国人研修生を搾取する町工場の社長と幼児虐待を繰り返す若い父親が安倍政権支持であることがわざわざ明言されてますが、この場面の描写だけあまりに唐突過ぎて非常に引っ掛かりました。
→300
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1975156446&owner_id=263792
『凍てつく太陽』でのこの上ない絶妙なバランス感覚を体感したばかりなので、上記の一方的な描写は些か驚きました。
『凍てつく太陽』〜『Blue』刊行までの数ヶ月間、葉真中先生に何か思うところでもあったのでしょうか。
勿論作家さんの思想信条を作品にどう反映しようと自由です。
ただ俺が、神経質に中立公正・不偏不党に拘り過ぎてるだけ。

「人間は二度死ぬ、肉体が滅びたときと、人々に忘れ去られたとき」

改めてこの名言が身に沁みる。
平成が始まった日に生まれ、平成が終わった日に死んだ「Blue」
例えその肉体が滅んでも、登場人物たちが彼を覚えている限り、そしてこの作品を手に取る読者がいなくならない限り、平成を駆け抜けた彼は令和の今も生き続けるのです。


平成を駆け抜けた読者たちへ
★★★☆☆
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