読書日記Ｎо．1285（「折々のうた」アンソロジー、次は俳句）

■長谷川櫂編「大岡信『折々のうた』選　俳句(一)」2019年11月岩波新書
■長谷川櫂編「大岡信『折々のうた』選　俳句(二)」2019年12月岩波新書

６回前の読書日記で、大岡信さんの「折々のうた」選の短歌を取り上げた。

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1976281307&owner_id=5540901

その継続として、次は俳句編を手に取った。

何回もこの読書日記で、宣明しているように、私は日本の短詩型文学のファン
である。自分では作歌も作句もしなくて、専ら鑑賞のみだが。

このジャンルがこんなに好きになったのは、きっかけは、中学校や高校の国語
の教科書だが、大岡信さんの「折々のうた」をずっと読んだ影響が大きい。

日本の短詩型文学は、主に短歌と俳句があって、私はどちらかと言えば、短歌
の方が好みだが、改めて本書を読むと、俳句も素晴らしく、捨てがたい。

編者の長谷川櫂さんは、読売新聞記者から、俳人になった人で、1954年生まれ
という私と同い年なので、贔屓にしているが、現在、読売俳壇の選者や、俳句論
の著作も多く、ご自分でも作句されている俳人でもある。

本書の惹句を紹介しますね。

まずは（一）
“日々のささやかな驚きや心動かすものが、人を生かす力ともなる。「私はそれを
古今の詩の中に求めてみたい。」その希望を胸に編まれた、詩人大岡信のライフ
ワーク「折々のうた」。万葉集をもしのぐアンソロジーを「俳句」「短歌」
「詩と歌謡」に再編集して贈る全五巻。本巻は、芭蕉をはじめとする古典主義俳句
を収録する。”

続いて（二）
“江戸時代後期、社会と文化の大衆化を背景に、俳句の質的変化が起こった。日常語
によるわかりやすさと個人の細やかな心理描写は、芭蕉と蕪村の時代にはない句を
生み出す。俳句編第二巻の本書では、一茶に始まり、子規、虚子、楸邨、龍太へと
継承されてゆく近代俳句を取り上げる。大岡信の読みとともに学ぶ俳句クロニクル。”

名句につぐ名句で、編者は、言葉の森の中から、600句を選りすぐった。
その句と、大岡信さんの評を読むだけで、俳句の誕生から現代までの名句が堪能
できる、素晴らしいアンソロジーが出来上がって、大いに堪能した。

それでは、本書２巻の中から、さらに私の印象に残った40句を紹介。

・目には青葉山時鳥（やまほととぎす）初鰹　　山口素堂
・閑（しづか）さや岩にしみいる蝉の声　　松尾芭蕉
・水とりや氷の僧の沓（くつ）の音　　松尾芭蕉
・梅一輪一りんほどのあたたかさ　　服部嵐雪
・越後屋に衣さく音や更衣（ころもがえ）　　榎本其角
・春の夜や女をおどす作りごと　　炭太祇
・月天心貧しき町を通りけり　　与謝蕪村
・ところてん逆（さか）しまに銀河三千丈　　　与謝蕪村
・憂きことを海月（くらげ）に語る海鼠（なまこ）かな　　　黒柳召波
・やはらかに人分けゆくや勝角力（すもう）　　高井几菫
・花鳥もおもへば夢の一字かな　　　夏目成美
・蛇穴を出れば飛行機日和也　　　幸田露伴
・有る程の菊投げ入れよ棺の中　　夏目漱石
・白牡丹といふといへども紅（こほ）ほのか　　高浜虚子
・金亀子（こがねむし）擲（なげう）つ闇の深さかな　　　高浜虚子
・湯豆腐やいのちのはてのうすあかり　　　久保田万太郎
・竹馬やいろはにほへとちりぢりに　　　久保田万太郎
・谺（こだま）して山ほととぎすほしいまま　　　杉田久女
・冬菊のまとふはおのがひかりのみ　　　水原秋桜子
・木がらしや目刺にのこる海のいろ　　　芥川龍之介
・空をゆく一とかたまりの花吹雪　　　高野素十
・夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり　　　三橋鷹女
・ラガー等（ら）のそのかちうたのみじかけれ　　　横山白虹
・中年や遠くみのれる夜の桃　　　西東三鬼
・おそるべき君等の乳房夏来る　　　西東三鬼
・ところてん煙のごとき沈みおり　　　日野草城
・万緑の中や吾子（あこ）の歯生えそむる　　　中村草田男
・つきぬけて天上の紺曼珠沙華　　　山口誓子
・鮟鱇（あんこう）の骨まで凍ててぶち切らる　　加藤楸邨
・雉子（きじ）の眸（め）のかうかうとして売られけり　　加藤楸邨
・しんしんと肺碧（あを）きまで海の旅　　　篠原鳳作
・春の日やあの世この世と馬車を駆（か）り　　　中村苑子
・谷に鯉もみ合う夜の歓喜かな　　　金子兜太
・白梅のあと紅梅の深空（みそら）あり　　飯田龍太
・祈るべき天とおもえど天の病む　　　石牟礼道子

一気に引用したが、引用していても、名句の言葉に、心震えた(^^♪