昨2018年12/10にNHK-BS[プレミアムシアター]で放送されたベルリン国立歌劇《マクベス》(ヴェルディ)を観る。
指揮 ダニエル･バレンボイム
演奏 ベルリン国立歌劇場管弦楽団/同合唱団
演出 ハリー･クプファー
美術 ハンス･シャヴェルノッホ
衣装 ヤン･タックス
照明 オラフ･フレーゼ
映像 トーマス･ライマー
出演
マクベス プラシド･ドミンゴ(T)
マクベス夫人 アンナ･ネトレプコ(S)
バンクォー ヨン･グァンチョル(B)
マクダフ ファビオ･サルトーリ(T)
マルカム フロリアン･ホフマン(T)
収録 2018年6/11,17,21ベルリン国立歌劇場公演
今回の公演は、マクベスと同夫人にドミンゴとネトレプコを配したところに最大の注目を浴びた。
ネトレプコは現在最高の性格表現歌手であろうから、これは尤もな配役だ。
期待した通りの歌唱と演技で、この役の影の部分を怖ろしい程に表現しきった。
権力を夢み、悩む夫に王殺しをけしかけ、最後には狂って死ぬ。
第2幕の新王の披露パーティでは幻影を見る夫を叱咤し、第4幕では、遂に悪夢に取り込まれて、自ら狂気に至り城内を夜な夜な徘徊する。手に着いた前王の血がどうしても消えないと、怖ろしいアリアを歌い演ずる。
強さと弱さ、光と影、その両極を見事に表現して、観客を惹き込んだ。
ヴェルディの作曲は声域の広さを要求するもので、高域よりも中低域で曇った音色を表現しなければならない。過去にはメゾ･ソプラノがこの役を演じた事もかなりある。
ドミンゴの方は正直言って驚いた。
この公演時に既に77歳という年齢で、2010年には大病で手術をした経験もし、こうしたエネルギーが必要で且つ長時間の歌唱を求められる過酷な役柄は無理かと思っていたのだが、見事に全編を表現した。
最近は指揮の活動が増えているし、軽い音楽のディスク発売が続いている。オペラでも、2015年に彼が芸術監督を務めるロサンジェルス歌劇場で《ジャンニ･スキッキ》のタイトルロールを演じた。プッチーニ唯一の喜劇。無理の要らぬ軽妙な役柄であった。そのビデオは、2017年4月にNHK-BSの同じ番組で放映した。
声域もやや低くなっていて、最近はバリトン役を歌う事もあるようだ。
もともと性格表現には評価が高い訳で、将軍でありながら、精神を病み、最後には自分が殺した王の息子に刺されて死ぬという、明暗幅の広い役どころを、観客の共感を得つつ見事に演じた。
ハリー･クプファーのの演出は、2014年の同じ放送で、ザルツブルク音楽祭2014の《ばらの騎士》(R･シュトラウス)を観ている。
今回の演出では、最初から魔術、悪夢、妄執、幻影、亡霊等、影の部分の表現に力が入れられた。
トーマス･ライマーの不穏な映像もそれに貢献をした。
ラストは、刺されたマクベスが「ちっぽけな王権よ」と叫んで死ぬ。
一般的には前王ダンカンの子マルカムが勝利を収め勝利と圧政の終わりを祝うのが普通だが、今回のクプファー演出では、マルカムとマクダフとが王のたすきを奪い合って争う姿を見せて幕が下りる。
権力を巡る争いは絶えない、そう人間の世を予言している。
こうした表現主義的な性格はドイツ的とも言える。
上演史を見ると、この《マクベス》は驚く事にイタリアよりもドイツでの公演が多いようだ。
イタリアではリソルジメントの動きにこの作品が沿っていないというような一面的な評価がなされる事もあり、上演頻度が1870年代から1930年代迄の間は極端に落ちた。
1920年代から30年代の頃ドイツでは、「ヴェルディ･ルネサンス」と称される現象が起き、ワーグナーよりも上演機会が上回る事があったが、特にこの《マクベス》がそれに貢献したようである。
過去の鑑賞。
CD；G･シノーポリ指揮,ベルリン･ドイツオペラ管弦楽団/1983)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=917241385&owner_id=3341406
DVD；F･ウェルザー=メスト指揮,D･パウントニー演出,チューリヒ歌劇場/2001）
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1941269850&owner_id=3341406
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