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2019年01月28日20:58

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榎本渉「日宋・日元貿易の展開」

 高橋典幸/五味文彦編『中世史講義』(ちくま新書、2019年)には、15講それぞれに読むべきものがあるけれど、今回は第3講「日宋・日元貿易の展開」に触れてみたい。これは、『僧侶と海商たちの東シナ海』(講談社選書メチエ、2010年)の榎本渉先生が書かれている。

 日本古代における大陸との交易は、遣隋使、遣唐使という国家使節を指すけれども、これは数年、ときに数十年の間隔をおいて断続的に行われたものであった。加えて、9世紀末に遣唐使が「廃止」されたという理解が長らくあり、その帰結として日本には国風文化が花開いたともいわれてきた。

 しかしこんにちにおいて、そうした解釈は誤りとされる。

 なぜなら、9世紀後半から民間貿易船による交易が盛んとなり、数年、数十年おきに往来した遣唐使とは異なり、頻度は高かったと考えられるからである。ただ、日本側の窓口は九州(博多など)が専らであったことから、朝廷に記録されることはほとんどなく、それゆえ歴史的に長らく無視されてきた。
 平清盛が行ったとされる日宋貿易も、すでに民間で活発に行われてきた交易に乗じたものであって、清盛や平氏政権の独創ではない。そして交易の担い手は、国家使節の手から、日中の海商とその船に同乗して仏教や文化を学び伝えた僧侶たちに移っていた。
 国家の許可を得ず、勝手に渡航するのは国家の庇護を受けないことも意味したわけだけれども、渡航や大陸での暮らしにはそれなりの財力がなければいけない。そのスポンサーは摂関家や院だったと考えられているから、無断渡航は黙認されていたとみるべきだろう。その代わり、大陸からの文物を手に入れるよう依頼を受けていたと思われる。

 「日宋・日元貿易の展開」は基本的に、『僧侶と海商たちの東シナ海』の内容に沿ったものである。この本は私にとっても知的好奇心をくすぐられた一冊で、一般的にも評価が高いものの、店頭からは姿を消して久しい。そういう点で、この講は平安時代から室町時代初期(南北朝時代)あたりの対外関係を概観するのに適した内容となっている。

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