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2015年11月20日17:30

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東京行その1～プラド美術館展/三菱一号館美術館

11/17(火)、最初に訪れたのは、三菱一号館美術館で開催中のプラド美術館展だ。
副題には「スペイン宮廷美への情熱」とある。また、「三菱一号館美術館開館5周年記念」の位置付けともなっている。
　・会期　2015.10.10～2016.1.31

この展覧会の最大の特徴は、小さなサイズの作品を敢えて中心にして構成している点だ。斬新な着眼だと思う。
一般的に、特にバロック時代に入ると、注文主が教会や宮廷になるケースが増え、その威光を示す目的もあって、作品は大型化する。それを請ける為、画家側は大工房を持ち、何人もの弟子達と共同制作をするようになる。当然ながら画家本人以外の手が多々入る事になる。
その事の是非は措いて、それに対し、小品の場合は100%画家本人の手によって完成されるだろう。完成度の高さ、描かれた世界の豊饒さは、小品にこそ顕れる、そんな言い方もできるかもしれない。
この展覧会は、2013年のプラド美術館で企画開催され、バルセロナでも開かれ、幾分か構成を練り直して三菱一号館美術館に持って来られたものである。

小さなサイズの作品には、下記のような性格のものがある。
・注文主が私的に愉しむ為に最初から小品として依頼されたもの。
・大作の縮小版として注文されたもの。
・ラフな下絵スケッチの類。
・下絵でも綿密に描かれたひな型的なもの。
・自然写生。

小品には細部にその魅力がある。
観客にミクロを見させる工夫が、会場でも、ホームページでもなされている。

展覧会の構成は以下の通り。

Ⅰ　中世後期と初期ルネサンスにおける宗教と日常生活…8点
Ⅱ　マニエリスムの世紀：イタリアとスペイン…6点
Ⅲ　バロック：初期と最盛期…30
Ⅳ　17世紀の主題：現実の生活と詩情…14点
Ⅴ　18世紀ヨーロッパの宮廷の雅…27点
Ⅵ　ゴヤ…6
Ⅶ　19世紀：親密なまなざし、私的な領域…11

総計102点である。

中で、ヒエロニムス･ボス(1450頃-1516)の作品が、日本初公開で1枚来ているのは、大きな見どころの1つだ。ボス作品は世界で20点しか確認されていない。
展示されているのは《愚者の石の除去》(1500-10頃)で、板に油彩で描かれている。構成上は章Ⅰ。

白い服を着た小太りの中年男が、原っぱの上で椅子に縛り付けられている。その後ろに立った男は医者だろうか、メスを持って、中年男の頭を切開している。男の頭頂からは血が流れ出ている。一方、医者の頭には頭巾にロートが逆さに被さっていて、「愚行」を意味するとの事。
ネーデルラントでは、17世紀頃迄、頭の中の小石が大きくなると愚か者になるので、その石を切除する事が必要だと信じられていた。
しかし、傷口から顔を出しているのは石でなく、青い花である。
手術が意味のないものである事を、同時代人のボスは知っていて、その愚行を風刺しているのだ。
絵の右サイド、テーブルに肘をついてやれやれという顔をしているのは、中年男の妻で、その頭に乗っているのは本である。つまり、何が得になるのか、冷静にバランスを見極めようとしている。
彼女と手術をされている夫との間にいて、厳しい顔付きをして説教しているのは司祭、どうやら彼女とはできているらしい。
テーブルの上には、金色の花が乗っていて、これは手術を受けている男の財産の象徴だろう。財産は司祭の懐に入るのか、それとも手術の代金なのか。
このありさまは円の中に描かれていて、その上下には文字が書き込まれている、曰く「先生、どうか石を取り除いておくんなさい。おいらの名はルッベルト･ダスだ」。
「ルッベルト」は「欺かれた、去勢されたアナグマ」という意味があるらしい。
3人は全員ぐるで、ルッベルト1人が騙されているのである。

細部を愉しんでこそ、この展覧会の意味はある。

この後、ひとまずホテルにチェックインし、地下鉄有楽町線で江戸川橋へ。

(続く)
　

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