11/12(木)、静岡文化芸術大学の授業〈文化と芸術C〉の聴講第6回。
テーマ；未来派、または騒音芸術
講師；上山典子
未来派は、20世紀初頭、モダンを突き抜けて、最も過激な芸術集団だったと言える。
◆未来派とは何か？
フィリッポ=トンマーゾ･マリネっティ(1876-1944)の書いた意見広告「未来派宣言」(1909)が、〈ル･フィガロ〉紙第1面に掲載された。
記事でなく個人的な意見広告が何故新聞の1面を飾ったのか。それは新聞社がニュースとしての価値を認めたからである。
「未来派宣言」は、後、1912年13年にも発表された。芸術の各ジャンルにおける未来派の主張が説かれている。
マリネっティはエジプトで生まれたイタリア人で、パリで活動、本拠地はミラノだった。詩人であり、作家であり、批評家である。
彼の宣言に賛同したイタリア･ミラノの若い前衛詩人,音楽家,画家等5名によって未来派は結成された。
機械文明を賛美し、19世紀の枠組み、伝統的芸術を破壊しようとした、当時最も急進的なグループで、街頭でのプロパガンダ活動、劇場では「未来派の夕べ」を催した。それらは毎回警察沙汰になり騒動となった。
そして、軸を次第に政治運動に拡げていく。
◆特徴
工業,機械文明の進展、急速な都市化を背景に、機械や速度、ダイナミズムを礼賛。
「機関銃をも圧倒するかのように咆哮する自動車は、サモトラケのニケより美しい。(*1)
工場,労働,近代エネルギーを賞賛、更には戦争やファシズムに賛同。戦争を「世界の唯一の衛生法」と主張した。
闘争,攻撃的性格,暴力的強襲(殺人をも肯定),軍国主義,愛国主義に彩られた。
反面、女性軽蔑、博物館や図書館は過去の遺産として破壊を主張。
(*1)自動車のスピード記録、1899年100km/h、1909年には200km/hへ。
ライト兄弟の初飛行成功(1903)を経て、未来派は1912年より飛行機賛美へ。
ルイージ･ルッソロ(1885-1947)の「騒音芸術の宣言」(1913)。(「雑音」「ノイズ」と言う場合もあり。)
ルッソロは元画家だったが、音楽の指導的理論家となった。音楽教育は父親から受けた。絵だけでは、未来派思想を体現できない(*2)と考え、音楽家に転向。
(*2)絵は静止しており、攻撃的ダイナミズムに欠けると考えた。
「音楽の発展は、機械の増大と並行している」
「純音楽の狭い枠組みを打ち破り、楽音,雑音の無限の多様性を獲得すべき」
「我々は、市電,エンジン,車体,大騒ぎする群集の雑音の理想的組み合わせの方が、例えばベートーヴェンの『英雄交響曲』や『田園交響曲』を聴き直すよりもずっと好きだ」
「イントナルモーリ」(騒音楽器〜機械)の発明。様々な騒音を発生し、音程を変える事ができる。
イントナルモーリは「調律」と「騒音」の合成語。
イントナルモーリによる『都市の目覚め』作曲。(1913)
高さが変化する騒音が轟く。但し、楽譜見開き2ページの短さ。約30秒。
試聴� 張ぅ鵐肇淵襯癲璽蠅論鐐茲杷鵬�されたが、それを再現したもので録音したCD。
工場の騒音、都市の路上の音、群集が出す音、自動車や飛行機が出す音、それらのような音のアンサンブルと言えばよいか。
但しルッソロは「騒音の芸術は、決して模倣的複製に終わってはならない」と言っている。
1921年 パリで「騒音コンサート」を複数回開催。
その会には、ラヴェル,ミョー,オネゲル,ヴァレーズ等の作曲家も来た。
試聴�◆張襯ぁ璽犬侶� アントニオ･ルッソロ作曲の『コラール』(1924)
イントナルモーリ＋管弦楽。
試聴��…レオ･オルスタイン作曲『飛行機に乗って自殺』(1918)
ピアノをトーン･クラスター的に扱った創始期のピアニスト,作曲家。
ウクライナ出身のユダヤ人。未来派には属さなかったが、後世からは同派に分類される事が多い。
試聴�ぁ張献隋璽�･アンタイル作曲『メカニズム』(1923)
ドイツ系ユダヤ人、後米国に移住したピアニスト,作曲家。
ストラヴィンスキーに影響を受けた自由奔放なリズムの扱い。
後の作曲に『飛行機のソナタ』等。
試聴�ァ張▲襯謄紂愁�･オネゲル(1982-1955)作曲、管弦楽の為の『パシフィック231』(1923)
フランス6人組のメンバーの1人。
本人曰く「300トンの重量を持つ蒸気機関車がゆっくり動きだし、加速してフルスピードになり、また停止する迄を表現している」。
未来派の作曲家ではないが、上記「騒音コンサート」にも足を運び、考え方に影響を受けた。
未来派に影響を受けた作品の中では最も完成度が高く、有名になった。
未来派は1909年に起こるが、1914年には早くも減退する。
第1次大戦により活動が制限されたという側面もあるが、過去を全否定するという極端な姿勢に民衆の反感が大きかった。
しかし、その後も、様々な形で影響を諸芸術に与えた。
視聴�Α�DVD、チャップリンの『モダンタイムス』(1936)
オートメーション化によって人間が機会として扱われる状況に対する風刺。
未来派の楽天的な機械文明賛美とは正反対。人間の文明感が、未来派宣言の27年後には既に大きく変化していた事を実証する。
ログインしてコメントを確認・投稿する