■内田樹「もういちど村上春樹にご用心」2014年12月文春文庫
内田樹さんの、村上春樹論が昨年末文庫化されたので、手に取った。
世に村上春樹論は、多々あるが、肝心の村上春樹さんは、自分の作品論
は、全く読まないことを公言している。
それは、ちょうど村上春樹が、世に受け入れ始めた頃、日本の評論家たちが
罵倒に近い形で、村上作品を酷評したからかもしれない。
だから、村上春樹は、ある時期から日本を脱出して、世界に居を構えて、
小説を書いてきた。
内田樹は、その評論家たちが、村上作品がなぜ、世界でこれほどまでポピュラ
リティを獲得したか、なにもわかっていないという。
本書は、その謎解きもあるが、内田さんの、村上春樹を論じるスタンスが、ファン
としての立ち位置に徹していて、心底好きなんですね、村上作品が。
私は、内田さんも村上さんも、馴染みで好きな方たちなので、本書は一粒で二度
美味しさを、堪能できた。
惹句を紹介。
“なぜ村上春樹文学には、朝ご飯を食べたりお掃除をしたりするシーンが頻繁に
描かれるのだろう？”
“司馬遼太郎の後継者としての村上春樹から、「正しいふるまい」のマニュアルの
ない世界で生きるヒントまで、村上文学の多彩な魅力を掘り下げた異色の一冊。”
帯のキャッチも紹介。
“村上春樹は「正しさ」を語らない、人を蝕む「弱さ」を語る。「弱さ」をきっかけにして、
異界への扉が開く。”
“村上春樹は(フランツ・カフカと同じく)、この地図もなく、自分の位置を知る手がかり
の何もない場所に放置された「私」が、それでも当面の目的地を決定して歩き始め、
偶然に拾い上げた道具を苦労して使い回しながら、出会った人びとから自分の現在
位置と役割について最大限の情報と最大限の支援を引き出すプロセスを描く。”
章立てと小見出し抜粋も紹介しちゃいましょう。
はじめにー村上春樹の太古的な物語性について
�機―蘓桓圓里燭瓩梁湿綵媼�の「ここが読みどころ」
・ご飯を作るシーンと掃除をしているシーン
・司馬遼太郎と村上春樹のフェアネス
�供 孱隠傳牽粥廚肇┘襯汽譽燹Ε好圈璽舛鯑匹�
・壁と卵ーエルサレム・スピーチを読む
・「父」からの離脱の方位
�掘‖湿綵媼�の世界性
・「冬のソナタ」と「羊をめぐる冒険」の説話論的構造
・「激しく欠けているもの」について
＜特別対談＞
柴田元幸×村上春樹「村上春樹はからだで読む」
�検）殘�家・村上春樹
・「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の「君」とはホールデン自身である
・極東のアヴァター−「羊をめぐる冒険」と「ロング・グットバイ」
�后，Δ覆�と倍音
・太宰治と村上春樹
・１００パーセントの女の子とウェーバー的直感について
�此＼磴�きくん、世界を救う
・村上文学における「朝ご飯」の物語的機能
・お掃除するキャッチャー
文庫版特別付録
・「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」について
・「女のいない男」のひとりとして
村上春樹を、「雨月物語」の上田秋成の系譜に位置づけたり、司馬遼太郎の
後継者と位置づけたり、読者へのパーソナルなメッセージの響かせ方の共通点
として、太宰治との類似点を述べたりと、目から鱗的な驚きもたくさんある。
300ページちょいの文庫本だが、読み終えるのが惜しいと感じるほど、堪能した。
内田樹さんの政治的な発言には、100％同調してないが、このような文学論や
共同体論、文体論、コミュニケーション論には、満腔の同意をいつも感じる。
村上春樹を論じるなら、必読だと思います♪♪
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