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2014年02月04日16:06

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歌劇『シモン・ボッカネグラ』

1/12(日)のNHK-Eテレ<クラシック音楽館>では、NHK交響楽団の第1766回定期公演のライヴ収録が放送された。歌劇『シモン・ボッカネグラ』である。
とは言っても、演奏会形式の公演であって、オーケストラはピットでなく舞台上に並び、その前でソリスト達が歌う。コンチェルトのようなスタイルと理解頂ければよい。
ソリスト達は役柄とは関係なく、全員正装である。
身体の演劇的側面は殆どなし、とは言っても、台本のセリフはそのままであるし、声による性格や感情表現は無論必要不可欠だ。

『シモン・ボッカネグラ』はヴェルディ中期の作品で、1857年44歳の年に初演された。
しかし、これは大失敗に終わり、24年も経った1881年に改訂版が作られ、こちらは成功。
改訂版を中心に考えれば、68歳、後期の作品に位置付けられる。
原作は、アントニオ・ガルシア・グティエレスの同名戯曲。初演はフランチェスコ・マリア・ピアーヴェによる台本、改訂はアッリーゴ・ボイトによる。
今日オペラとして公演されるのは、殆ど改訂版のみ(プロローグ付き2幕伊語)。

この歌劇は生では観たことはないが、TV放送で1度観た事があり、今回は2度目という事になる。
前回は人間関係の混み入ったさまに辟易、また、通して暗く陰鬱な感じで、愉しめなかった記憶がある。演出者,指揮者,歌手等のデータも憶えていない。

今回の公演データは以下の通りである。

指揮 ネルロ・サンティ
演奏 NHK交響楽団,二期会合唱団
 (*)演奏会形式なので、演出家は用いられない。

出演
シモン・ボッカネグラ パオロ・ルメッツ(Br)
マリア/アメリア アドリアーナ・マルフィージ(Sp)
ガブリエレ・アドルノ サンドロ・パーク(Tn)
ヤコポ・フィエスコ グレゴル・ルジツキ(Bs)
パオロ・アルビアーニ 吉原輝(Br)
ピエトロ フラノ・ルーフィ(Br)

2013年11/8、NHKホールライヴ収録

主要登場人物の中では、女性歌手は1人のみである。その上、男性歌手もバリトン,バス等、低音系が多い。
最初にこのオペラを観た時感じた暗さは、ここからも来ていると思われる。
バリトンとバスの2重唱等、声の色彩感に乏しくなるのは当然と言えば当然。

物語は、男達の政治的対立構造によって引き起こされ、それに血族の問題が絡む。
男達の心理表現がこのオペラのポイントである。
誤解と誤解、不条理な結末、絶望的な宿命感、これらが、対話劇として歌われていく。陰鬱なイメージは尤もな事だ。
そして、感情は抑えられて表現される場面が多く、爆発するのは、第1幕第2場のガブリエレの怒りのアリアくらいのもの。
サンドロ・パークというとちょっと判らないが、韓国の若手で、素晴らしい声と爆発の表現だった。

内的心理描写の路線は、この後、1887年、晩年の名作『オテロ』に結び付き、高い完成度を見せる事になる。

音楽的には、オーケストラ演奏、アリア、レチタティーヴォが順次段取り的に並べられるという旧い様式性からは離れ、ドラマの1つの流れとして捉えられている。
そういう意味では、新しい時代のオペラにヴェルディは踏み出していると言ってよい。

登場人物達の役割や立場等を一旦措き、オペラ全体を1つの渾然とした音楽のように聴くと、その素晴らしさがまた見えてくる。
 
指揮のネルロ・サンティは今年83歳、袖と指揮台の間の足取りもやや覚束ない。が、ヴェルディオペラはお手のもの、迷いのない活き活きした表現、そして笑顔も可愛い。
 
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