冷たくからびた唇を大粒の雪があざ笑う
木の橋はわずかな肌を残して凍っている
頬のこけた素浪人が袖をはためかせ
角張った肩を風に突き立てると
わらじは死に向かって確かに進みはじめた
陽はうすく西に傾いている
橋のたもとに潰れた蒲公英がけなげで
脚を止めしばらく見やる
目をあげると宿場町は灰色に閉ざされ
駄々っ広い道が素浪人をさらしている
踏みしめる雪の音は風にかき消され
ただ枯れ木のうなり声と
震える宿屋の戸の音だけが耳に届く
町の中ほどで痩せたのら犬と出合う
かすれた吠え声は遠く過去をよみがえらせ
死神に向けられた眼差しが痛い
町を抜けると吹雪の向こうに屋敷がかすむ
素浪人を取り巻く雪が
骨ばった体を刺すように降りしきっている
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