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2013年11月05日23:33

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『津軽の詩人』〜返詩で繋ぐ詩集より



寒気の誘いに津軽の里は閉ざしている

山の裾野をのぼる冷たい風にまぎれ
襤褸をはおった詩人が佇んでいた

彼は神のようであり無にも等しい

ひとつめの雪が空を伝って降りるのを
まばたきもせず遠い目に映している



白が舞う薄れた瞳の中で
小さな村はさらに小さく納まり
色は空へ次第に溶け出している

睫毛の根本から犬が現れふり向く
鼻つらをたたく雪に耐えかね
後姿は再びふもとの小屋へ急ぐ

吹雪く瞳は白一色へ



詩人は村はずれの橋のそばに立っていた

先ほどの犬がそばを駆けていく
その光景を見ている者がひとり
いや、見えてはいない
詩人の瞳に三味線弾きが映る

犬は小屋に入り詩人を見ている

三味線弾きが視界を遮るように立ち
棹の雪を払いのけた

撥をとる右手が袖からのびる
テテン、
一瞬の張りつめた音が風を止める
散る雪が詩人との間をゆっくりとすべる
テンテンテン、テテテン、
雪は三味線弾きをとり囲み
やがて渦をなして彼を包みこむ
微動だにしない背中
枯れ枝のような両手指がしなやかに踊る

詩人の瞳は涙にゆれ
雪を這いあがる響きに胸を射られる
風雪に打たれながらぼやけた夢うつつ



風がゆるやかになった時
三味線弾きの姿はなく
遠くで沸き立つかすかな音を背に
震えながら縮こまる犬の姿だけが
降りつづく雪の向こうにかすんでいる




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