3/12(火)は朝8:50発の新幹線で浜松を出発し、東京に向かった。
とは言っても、東京に入る前にまず寄ったのは、横浜美術館である。
同館着、11:30頃。
開催中の展覧会は、「ロバート･キャパ／ゲルダ･タロー 二人の写真家」展だ。
・会期1/26〜3/24
これに先立ち、2/3(日)NHK総合で放送された<NHKスペシャル>『沢木耕太郎推理ドキュメント 運命の一枚〜戦場写真最大の謎に挑む』と、3/3(日)NHK-Eテレ<日曜美術館>『二人の”キャパ”』を、私はタイミング良く観ている。
前者は、沢木著『キャパの十字架』として文藝春秋社(2013年2月発行)の単行本にもなった。
写真1 中日新聞3/10朝刊、同書記事。
横浜美術館の展覧会は沢木の主張を軸にしたものではないから、キャパの最も有名な写真『崩れ落ちる兵士』に関して、”その真実については元々諸説があったし、今もいろんな説が展開されている”とイヤホンガイドで述べるに留めていた。
沢木説は、科学的な手法も駆使し、大変真面目な論考で、日本人がこういう主張ができるという事は実に素晴らしいと思うが、これが世界の定説になるのにはもう少し時間が要るのだろう。
また、この展覧会は『崩れ落ちる兵士』1枚について考えるのが狙いではなく、写真家ロバート･キャパとゲルダ･タローの数多くの写真を一堂に集めて見せるところに焦点はあるので、一旦沢木からは離れてこのレポートを書く事にする。
展覧会は大きく2つに分けられていて、[PART1]がゲルダ･タロー、[PART2]がロバート･キャパとなっている。
[PART1]では83枚の写真と10点の資料、[PART2]では、193枚と39点。
とは言っても、この分類は簡単な事ではなく、大変な作業を伴なっただろうと思う。
どだいキャパは実在の人物の名前ではない。
実在したのは、ゲルタ･ポホリレ(1910-37/独)と、アンドレ･フリードマン(1913-54/ハンガリー)である。どちらもユダヤ系。
そういえば、今年はフリードマン生誕100年の年になる。
2人がパリで出会ったのは1934年パリ。貧乏な2人は忽ち意気統合し、愛し合うようになる。1936年には、ロバート･キャパという架空のカメラマンの名を創作し、2人がそれぞれで写した写真を、キャパの作品として世に売り出した。この作戦が当たり、キャパの名は世に出て、商品価値が付き、注文も入るようになる。
出会った時、ゲルタ･ポホリレはカメラマンではなかったが、キャパの教えであっという間に写真の実力を付けていく。彼女は、岡本太郎の名を借りて、自身ゲルダ･タローと称するようになる。
残されたゲルダの写真にはキャパの印が押されたものが多い。一度刻印されたゲルダの名をわざわざ消してキャパとしたものもある。最晩年には、ゲルダのみの刻印も。
そういう現況下で、ゲルダの写真を特定するのは、骨の折れる事だろう。
当初、ゲルダはローライフレックスを、アンドレ･フリードマンはライカを使っていた。この2つから生まれる写真はサイズが異なる。
前者は正方形、後者は長方形である。
しかし、ゲルダも後ライカを使い始めるので、事はそう単純ではない。
素人が仕訳けの深みにはまる事はやめにするが、キャパ名で同じ対象(モデル)を写した作品が2様あるのは、こんな理由からである。
分けられた写真を見ると、ゲルダの写真は構図重視で、絵画的な素養を感じる。
対してフリードマンの写真は、対象となった人間の心情に迫ろうとする傾向が見られる。
勿論、報道写真というのは、悠長な事を言っていられない場合も多い、戦場では、自らの命も晒され、構図に構ってばかりはいられない。
ゲルダは、1人でも戦場に出掛けるようになる。
そして、スペイン内戦のマドリード西方ブルネテで、共和国軍撤退の混乱の中、味方の戦車に衝突され、翌7/26に死亡。27歳の若さだった。
こうして、2人の共同作業としてのキャパは突然に終焉し、フリードマン1人がキャパの名を背負っていく事になる。
キャパの名を背負うという事は、ゲルダの意思を継ぐ事に他ならなかった筈だ。
キャパの著名な言葉がある、
「きみの写真がよくないとしたら、きみがじゅうぶん近づいていないからだ」。
後進の報道カメラマンに、キャパはよくそう言って、もう半歩写すべき対象に近寄ってシャッターを押す事を勧めた。
しかし、この言葉は、キャパが自身に言い聞かせていたものでもあったに違いない。
世界で戦死した初めての女性報道写真家となったゲルダ、その思いを生かしていく為に、自身、被写体により近付く事を強いたのである。
キャパは、スペイン内戦の後、日中戦争の現場へ、そして第2次世界大戦の現場へ。
あのノルマンディー海岸Dデイの手振れ写真は、まさに死と隣り合わせにある。
第2次大戦終了の後は、インドシナ、ヴェトナムへ。
まるで、自分の言葉に操られるように、彼は戦地へ行き、そして最後は、1954年5/25、ナムディンの稲田の脇で地雷を踏んで即死。享年40歳。
[PART2]は、時間を追い、5つの章に区分されている。
・フリードマンからキャパへ 1932-37
・スペイン内戦 1936-39
・日中戦争〜第二次世界大戦�機�1938-41
・第二次世界大戦�供�1941-48
・インドシナまで 1946-54
[PART1]の写真は全てICP(国際写真センター)所蔵品。
ICPは、キャパの弟、コーネル･キャパによって1974年に開設された。
[PART2]は全て横浜美術館所蔵品。
横浜美術館は構想途次、写真美術館のコンセプトもあったようだ。
為に写真の所蔵は数多い。全約1万点の所蔵品の内、写真関連が4,200程もあるとの事だ。
キャパ作品は、開館2年前に、コーネルから寄贈されたもの。
今展の写真の中には、戦時の報道写真だけでなく、風俗写真、肖像写真の類もある。
日本を訪れた際の、街で撮った人々の生活風景、ピカソとフランソワーズ･ジローの有名な写真等も含まれている。
彼は観光地や寺社仏閣を撮る事はなく、著名人を撮ったとしても、それはブロマイド写真になる事はない、常に人間の本質そのものに興味は行っていた。
写真2 ゲルダ･タロー『マラガからの難民たち』(1937/スペイン)
・・・スペイン内戦時、マラガ地方から逃れて来た難民たち。
写真3 ロバート･キャパ『ドイツ兵との間にもうけた赤ん坊を抱いて家に帰る若い女性』(1944/仏)
・・・ナチスから解放後のパリ。民衆の復讐が、1女性市民に向けられた悲惨な光景。
【図録】
1.『横浜美術館 ロバート･キャパ コレクション』
企画･監修 横浜美術館,マグナム･フォト東京支社
執筆 松永真太郎他
発行 マグナム･フォト東京支社2013年1/26第1刷
2.『ゲルダ･タロー ICPコレクション』
企画･監修 ICP,横浜美術館,マグナム･フォト東京支社
執筆 イルマ･シャーバー他
発行 マグナム･フォト東京支社2013年3/1第2刷
【常設展】
「横浜美術館コレクション展 2012年度第3期 光をめぐる表現」
・会期 2012年11/3〜2013年3/24
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