11/9(水)、シネマe-ra浜松で『未来を生きる君たちへ』を観る。
スサンネ・ビアによるデンマーク映画、原題は『復讐』だという。
何とも直截的なタイトルだ。
映画には2組の場が描かれる。
1つは、ヨーロッパ(デンマーク)とアフリカ(スーダン？)という異なる地方、異なる国。
もう1つは、デンマークの2つの家族。
それら何処の場にもいつの間にか入り込む、”復讐”という名の暴力の連鎖。
アフリカの難民キャンプを襲うのは、欧米と植民地の支配被支配という関係でなく、内戦に姿を変えた土俗的な暴力の構図である。
妊婦の腹を裂こうとする呪術的な妄想に駆られた武装集団、そのリーダーは”ビッグマン”と呼ばれている。この呼称は、監督スサンネ・ピアの男性認識を象徴してもいるだろう。
この男性女性感は、私の内に長い年月をかけて蓄積されていたものと相似性が強く、大変驚いた。
デンマークの2家族は、というと、・・・
1つ目は、夫の女性関係によって別居を余儀なくさせられた夫婦。
その女性関係に詳細は触れられていないが、妻はその傷から今も癒えずにいる。しかし、夫と息子達は篤い信頼に結ばれている。
その夫は、「国境なき医師団」のような組織下で、医師として前述のアフリカ難民キャンプで活動していて、アフリカとヨーロッパの間を行ったり来たりしている。
この巧妙な設定で、遥か離れた2組の場の物語が映画の中で融合する事になる。
2つ目は、妻を癌で亡くしたばかりの夫と1人息子。
息子は、表面上父親に従順を装っているが、実は(映画のラスト近くになって明らかにされる)、母の死を父の所為だと信じ込んでいる。暴力衝動に駆られるのは、父に対する心理的反動の顕れなのだろう。
この2家族の息子達が、ある日同じ学校で隣り合わせに座る事となる。先の家族の息子は学校でいじめという暴力に虐げられており、後の家族の息子は、彼を救う為、暴力には暴力で対抗すべきだとの日頃の思いを実行に移そうとする。
世の中には、大きな暴力小さな暴力が充満している。それらが”復讐”という形で連鎖するのを、私達は、テレビや新聞報道で目にしない日がないくらいだ。
“正しいのはどちらか、間違っているのはどちらか”という選択の場で選んだ答えも、正否という観点では合っていたとしても、その中に暴力や復讐が潜んでいる事が多い。
世にあるトラブルに10の選択肢があったとしたら、その内恐らく7から8は暴力と繋がっている。それ程、非暴力を貫くのは難しい。暴力が潜んだ選択は、本当の解決を招来する事はできず、結局また再び暴力の渦に巻き込まれる事になるだろう。
“正義”等と言う言葉もそのいい例だ。正義の名の下に繰り返される戦争の何と多い事か。私は正義という言葉は信用しないようにしている。正義という言葉をやたら使う人間も信用しない。
多くの人にとっては、本当の解決よりも、感情の解決が優先されてしまう。そして、往々にして当事者はその事に盲になっている。
こうした困難の極みの縮図を、アフリカ難民キャンプで活動する医師、つまり1つ目の家族の父アントンの姿に見る事ができる。
ある日、ある男が子供同志の諍いに遭遇し、訳を問う事もせず、アントンに殴りかかる。男を動かすのは、ただ子を守ろうとする激情のみ。吐く言葉は「スウェーデン野郎はスウェーデンへ帰れ」である。暴力と差別,排他は同衾する兄弟だ。
アントンは、殴り返さず、何故殴るのかと男に問うが、会話にならない。
家に帰ったアントンは、息子達から何故遣り返さなかったのかと問い詰められる。
アントンは葛藤する。
古いハリウッド映画ならば、ここでキリスト教的な教訓(右頬を打たれれば左の頬・・)を持ち出すだろうが、ピアはそれが現代人に説得力がない事を知っている。私も、ここでピアがそんな展開を持ち出したなら、彼女に対する信頼感を雲散させてしまう。
アントンの葛藤は、現代における非暴力の苦悩だろう。何の為に自分はアフリカ迄行って平和活動をしているのか、アントンの行動は、自身の否定に繋がりかねない。しかし、どのようにすれば、息子達の信頼を取り戻せるのか。
ここでアントンの採った行動を話すのは避けるが、2つの家族のそれぞれの内に溜まり始めた不信というガスは、いつか”爆発”を呼び寄せてしまう。
『復讐』というやけに短い原題は、その後ろに暴力や侮蔑,憎悪を隠しているのと同時に、対極に、理解,信頼,赦し等も秘かに配置しているらしい。
それはビアの祈りに近いものかもしれない。
しかし、人間をもう一度信じ合う場に立ち帰す力をこの映画はギリギリのところで持っている。それが我々に感動を呼ぶ。
これは、少々映画から踏み出た発言となるが、私は1人の男として思う、男達は、自分達が作ってきた戦争に次ぐ戦争、暴力に次ぐ暴力、復讐に次ぐ復讐の歴史に総懺悔すべきだ。
男共は皆”ビッグマン”なのか？
監督・原案 スサンネ・ビア
脚本・原案 アナス・トーマス・イェンセン
撮影監督 モーテン・ソーボー
出演 ミカエル・パーシュブラント,トリーネ・ディアホルム,ウルリッヒ・トムセン,他
受賞 米アカデミー賞/ゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞 他多数
2010年デンマーク・スウェーデン合作
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