ドラッグに溺れたミュージシャンと言って、誰もが思い出さずにいられないのがスライ&ザ・ファミリー・ストーンじゃないでしょうか。
バンドの長男格スライ・ストーンが、スタジオに籠もって独りで作り上げた『
暴動』。
いわゆるサイケとは、
幻覚状態を音で再現しようとしたのが起源だと思われますが、同作にはそんなサイケ特有のカラフルさはない(第一に、この人はLSDじゃなくてコカイン)。ひたすら弛緩したグルーヴがのたうちまわっていて、ヤク中がただラリったまま作ったベッド・ミュージック、という印象。
実際、この時期のスライは完全にヤバい人になってたらしく、妄想に駆られてバンド・メンバーを殺害しようとしたこともあったそうです。
そんな問題作ではありますが、要所では意外なほどにポップな佳作を残していて、はからずしもスライの才能がピークに達していたことを証明してしまっている。大名曲“ファミリー・アフェア”もそのひとつでしょう。
これはポピュラー・ミュージックにおいてドラムマシンを使用した最初期の例にあたるらしい。この実験が功を奏し、ドロドロしたファンクにタイトなリズムを与えることに成功している。薬物中毒になってもアイディアの枯渇とは無縁だったようだ。
さらに、妹のローズ・ストーンがデュエットでボーカルをとっているが、彼女の伸びやかな歌声とは対照的に、いかにもだらしないスライの低音ボイスが印象的。ただしグダグダなだけでは終わらず、その絞り出したシャウトには背筋がゾッとくるような凄みが感じられる。
個人的に、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのベスト・トラック。何百回聴いたかわからない。
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