音楽の教科書にも載っているビートルズ先生ですが、その由緒正しいイメージとは裏腹に、
ドラッグでイッちゃってるような曲も多く発表している。
“ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ”もそのひとつ。
タイトルの頭文字を繋げると「LSD」になると、当時は話題になっていたらしい。単なる偶然だとジョンは否定しているが、サウンドを聴けばその影響は明らか。
エコー処理されたイントロのハープシコード、ダブルトラックではなくフランジャー処理されたジョンのボーカル、唐突な転調によるトリップ感、どうにも落ちつかない特徴的なベースのフレージングなど、いたるところで幻覚体験を模したサウンドが再現される。
歌詞に至ってはさらに具体的。「マーマレードの空」、「万華鏡の瞳をした少女」、「黄色と緑のセロファンの花」、「鏡のネクタイをしめた粘土の赤帽さん」など、幻覚体験をそのままビジュアル化したようなサイケデリックなイメージの羅列。いずれも制作過程においてドラッグが間接的なインスピレーションになっていたことは否定できないだろう。
ビートルズに限らず、ドラッグ体験に創作のインスピレーションを求めるアーティストは後を絶たない。なかにはオーヴァードースで命を落としてしまうミュージシャンも少なくないと聞く。
だが彼らビートルズは、サイケデリック・ムーヴメントの終焉とともに露骨なドラッグ表現は陰を潜め、すみやかにレコーディング技術のひとつとして昇華させていく。その嬉々とした姿には、バックトリップの苦しみは微塵も感じさせない。彼らは薬物に溺れることなく、むしろ薬物を利用することで最良の成果を収めることができたようだ。
ビートルズのその後の躍進を知ってる僕たちは、あるいはこんな想像をすることもたやすいかもしれない。たしかに“ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ”はドラッグ体験なくしては生まれなかった名曲だろう。だが彼らならきっと、ドラッグをやらなかったとしても、別のかたちで別のなんらかに影響されながら、同じレベルの名曲を生みだしていたに違いない。
結局、どんなものからでもインスピレーションを得ることのできる人間が、真のアーティストと呼べるのかもしれない。逆に言えば、ダメな凡人からはクスリやろうがなにしようが結局ダメなものしか生まれない。そんな残酷な真実を、“ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ”は教えてくれる。
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