月村了衛著
ジゴロを生業とする半グレ集団「カタラ」で二人の青年が出会った。
施設育ちで不良上りの「山科翔太」と、裕福な家庭で何不自由なく生きてきた「辻井海斗」
ワイルドな男らしさと優男の安心感、それぞれ対照的な魅力を補い合い「カタラ」でコンビを組んだ二人は、瞬く間に組織の中でのし上がって行く。
灰色に濁る山の頂に立ったとき、二人が見た景色とは、、、
月村先生は今回で四戦目。
月村先生といえば、、、そう、アクションッ!!
過去対戦してきた数多の作家陣の中でも、その文章を読んだときの脳内映像変換率は随一。
まるで映画のように流れる描写、まさに“観る小説”状態。
しかし今作はヒューマンドラマ、アクションものじゃありません。
最近作風が変化してることには気付いてましたが、月村先生はアクションものしか読んだことがなかったので、おっかなびっくりで読み進めるに面白い。
っつーか、めちゃめちゃ面白かったです。
もうサクサク、捲る捲る、続きが気になってしょうがないと、あんなにも急き立てられるかの如く貪り読んだのは何時以来か。
先ず「カタラ」での件があってその後、翔太編と海斗編の二部構成。
一冊で二作、全く別の作品が読めます。
贖罪と強欲の対比。
過去自分が陥れた女性たちを振り返り苦しみ続ける翔太。
ひたすら自らの欲望実現のために邁進する海斗。
どちらも甲乙付け難く読み応えありますが、やはり海斗編の凄まじさに軍配が上がりますかね。
「カタラ」で犯した悪行をすっかり忘れ去り、海斗は大手広告代理店「アドルーラー」に就職、そこで「都市博覧会」というビッグプロジェクトに携わります。
勿論この「アドルーラー」は、〇〇をモデルにしたもの。
この業務描写がもう凄まじいの何の。
実際に起きた東京五輪談合事件や女子社員過労自殺事件も絡め、濃厚な灰色の世界を描き出します。
半グレって半分グレる、暴力団でもなく一般人でもない犯罪集団だと理解してましたが、法律的には白でも倫理的には真っ黒って意味合いでもあるんだなと。
日本は法治国家であり、法律に則って社会が運営されています。
しかし、この法の網の目を潜り抜ける悪党共が野放しになっているという現実。
私服を肥やす政治家然り、人材を磨り潰すブラック企業然り。
利権を牛耳っている既得権益者たちに対し、我等庶民は殆ど対抗する術を持ち得ません。
現代日本が抱える病巣が、大手広告代理店を通して生々しく描かれます。
もっともっともっと、、、
金と権力に魅入られた亡者が蠢く戦場にあって、俺たちはどう生きてゆくべきか。
「自らの幸せが、他人の不幸を土台にしたものであってはならない」
本来ならば、全人類が厳守すべき大原則なんですが、所詮この世は奪い合い。
ライバルを引き摺り下ろし蹴落として掴んだ勝利、果てしない競争の末には何があるのか、、、
作中海斗が一応の答えを出してくれています。
何人もの女性を誑かし借金を背負わせ破滅させた男。
逮捕や告訴を搔い潜り、全く反省のないまま、さらに不幸をまき散らす男。
彼を日本国は裁けません、何故ならば法律的に白だから。
倫理的に真っ黒な悪党にも人権がある。これが民主主義国家なんです。
どこまでも灰色に濁った世界を突き進む彼を誰も止められない。
私たちにできるのは、その倫理観を批判することだけ。
このもどかしさ、やるせなさ、虚しさたるや。何とも言えない徒労感が読後に襲ってくることでしょう。
自由・平等・人権・平和・博愛、、、この世が理想論だけでは回らないことは百も承知。
でも、それでも、遥かな理想に向かって一歩ずつでも近付いていきたい。
自分の腹が満ちたら、飢えてる人に食べ物を分けてあげればいいじゃない。何故吐いてまでも喰らい続ける必要があるのか?
倫理観の葛藤だけじゃありません、広告代理店のお仕事モノとしても読み応え充分。
巨大イベントを成功させるため、政界・財界・芸能界に至るまで、あらゆる手練手管を駆使して灰色の境界線上を昇り詰めていく海斗。
これが月村先生の創作の域に留まらず、圧倒的リアリティを以って読者に迫ってきます。
外では裏金と談合と圧力、内ではセクハラとモラハラとパワハラの嵐、こんなことが現代日本で罷り通っているいう究極の理不尽に、愕然とすること請け合い。
巨大利権という魔物を養うため、どれほどの正義や真実が闇に葬り去られてきたのか、、、
その中には闇を暴こうとしてk、、、
って、どこが灰色なんだよッ!!真っ黒クロスケじゃねーかッ!!
令和でコレなら昭和は如何ばかりか、、、マジで戦慄を禁じ得ません。
真っ黒ばかりじゃ気が滅入るんで、白パートの翔太編も。
「カタラ」の悪行で収監された翔太はその後、人生を転げ落ちていきます。
落ちに落ちた人生のどん底で、自ら犯した罪の深さに気付き、激しい自責の念に駆られまる翔太。
多数の女性の人生を滅茶苦茶にしたクズの末路とはいえ、真に反省している人間が痛めつけられる様は見ていて本当に辛い。
そんな贖罪の日々にあって、彼は読書に救いを求めます。
物語を読み他人の人生を経験することで、これからの人生を生きていくための糸口を探す修錬。
月村先生の外国文学蘊蓄炸裂。
こういう場面では日本人作家の作品は推しにくいんでしょうね、海外作品ばっか。
海外作品全く読まない俺でも、翔太が読んで感銘を受けた作品を読みたくなりましたもん。
でもやっぱ、固有名詞(他の作品)の引用で、登場人物の心理描写を補佐する手法は好みじゃないです。
作家ならば、新たに創造した己の文章のみで、読者と真っ向勝負していただきたい。
閑話休題。
本を読んだからって過去の罪が消えるわけではありません。
しかし彼は本と出会い、本と出会うことで新たな人たちとも出会った。
人生のどん底で蹲っていた翔太が、罪を背負い直して再び歩き始める。
過去の罪は許せなくとも、読者の誰もが応援する気持ちになったのではないでしょうか。
さて、そんな二人がラストで再会するわけですよ。
ネタバレですが、当然予想できる展開なんで書いちゃいます。
これが、これがね、、、不完全燃焼なんだわッ!!
伏線を張りに張り、皆の思いを募らせて、このラスト一点に物語を収斂させたにも関わらず、、、あれッ!?何かあんま来ねぇぞと。
もっと怒涛の如く様々な感情が押し寄せると思ってたんで拍子抜け。
白でも黒でもない灰色、昼でも夜でもない半暮刻。
あらゆる二極の境界線上に立ってる不安定感こそ今作の持ち味とはいえ、もう一押し欲しかったってのが正直な感想。
でもアレ以外にどーすんの?と問われても、アレしかないだろってラストなんですけどね、、、
最後に蛇足を少々。
「カタラ」のカリスマリーダー「城有」
クズ中のクズ、作中最低外道ながら超良いキャラしてます。
でも「しろあり」って、、、「じょうゆう」のが良くね?
コイツのスピンオフ書いて欲しいわぁ、今作で使い捨てるには惜しいポテンシャル。
皆、誰イメージしながら読んでんだろ? 映像化するときの配役楽しみ♪
もう一つおかわり。
いきなり何の突拍子もなく改憲の話が捩じ込まれきて、むむッ!?と身構えましたが、こちとら先に
『土漠の花』→191
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1951409326&owner_id=263792
読んでますんで。
月村先生が公平中立な考えの持ち主であることは解っておりましたので、引っ掛からずに済みました。ふぅーー危ねぇ危ねぇ。
読者へ自らの思想信条を押し付けてくる作家さんは、ココでは最優先回避対象ですから。
アクション作家のイメージを完全払拭
★★★☆☆
ログインしてコメントを確認・投稿する