mixiユーザー(id:263792)

2023年07月15日20:42

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373冊目『日没』

桐野夏生著

中堅作家マッツ夢井はある日、「文化文芸倫理向上委員会(ブンリン)」なる謎の政府機関からの召喚状を受け取る。
曰く、過去作品の猥褻表現に対し読者から指摘があったという。
誰が何の権限で?と釈然としないながらも、仕方なく呼び出された辺鄙な田舎にある研修施設へ向かうマッツだったが、、、

国家による言論弾圧。
国家権力vs.一般市民という非常に安直な善悪二元論の奥に、もう一つの意図を感じたのは私だけであろうか。

公序良俗に反する作品を取り締まり、作家に品行方正さを強要する政府機関「文化文芸倫理向上委員会(ブンリン)」は、作中全く擁護出来ないほど、悪辣かつ醜悪に描かれている。
国家権力の暴走に憤りながら読み進めるに、ふとある思いにとらわれる。

「ブンリン」は、我々の心の中にこそあるのではないか?

ネットの勃興によって、人々は自由に自らの意見を述べられるメディアを手にした。
特権階級による情報発信の独占が崩れたことは、人類史に於いても特筆する出来事であろう。
しかし当然ながらメリットだけではない。
自分の意見を発すれば、その正当性を主張したくなる。
自らの正当性を証明するために、異なる意見とは激しい論争になる。
激しい論争はやがて誹謗中傷へ、さらには異論の排撃へとエスカレートしていく。

自分が正しいことを行っていると確信している人間ほど頑迷なものはない。
ネット上で度々発生する集団私刑、近年急激に浸透してきたポリコレの暴走、このままでは本当に中世の異端審問や魔女狩りの様な状況になってしまう。
耳障りの良い綺麗事を並べるだけが言論では決してない。
世の大多数が不快だと拒絶しても、表現者がそう表現したいというのならば、それを認めることこそ真の「表現の自由」ではないか。
勿論、差別や誹謗中傷は許されない。
しかしならば、表現の自由と誹謗中傷の境は、誰が?どのような基準で?判断するのか。
一部の人間による恣意的な判定は、絶対にあってはならない。
これは民主主義国家に生きる国民ならば、常に真正面から向き合わなければならない課題である。

作中の「ブンリン」に、自分と異なる主義主張の者たちを重ね合わせ、ヘイトを募らせながら読んではいなかったか?
今一度自省したい。


右曲がりのダンディー、コンフォートゾーンからの脱却
★★★☆☆
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