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2025年12月07日10:50

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433冊目『検証-空母戦-日米英海軍の空母運用構想の発展と戦闘記録』

ラース・サレンダー (著) 川村 幸城 (訳)

大谷翔平選手の伝記で、記述の大半が愛用しているグローブとバットに割かれていたとしたら?
厳選された素材とそれを加工する熟練した職人技。
確かに興味深いトピックではある、あの伝説を支えた一要素であることは間違いないであろう。
しかし、読者が求めているものはそこではない。
読者が知りたいのは、彼の野球哲学であり、練習法であり、チーム内での交友関係なのだ。

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第二次世界大戦に於ける航空母艦の戦闘を検証した本書は、著者であるサレンダー氏のシステム・エンジニアとしての経歴を反映して、科学技術の分析に偏った内容になっている。
「検証-空母戦-」と銘打つからには当然、太平洋で繰り広げられた日米の激闘についてとの先入観に捕らわれ、勝手ながら以下のような内容を期待していた。

一、「真珠湾攻撃」から「レイテ沖海戦」まで、各海戦に於ける戦略戦術の解説
二、艦隊を指揮した提督たちの決断の心理分析
三、西洋人視点から観た日本海軍組織批評
四、艦載機搭乗員の育成と救助態勢の解説
五、艦載機及び兵装の進化

一、の戦略戦術については、「第2部 第二次世界大戦の空母戦」で触れられているが、「第13章 ペデスタル作戦」以外は、既知の史実ばかりで新しい知見は得られなかった。
二、三、四、に関して特筆すべき点はない。
本書の争点は五、特に兵装(レーダー・無線・対空砲など)の解説に記述が集中していることである。
そもそも掘り下げるのは、レーダーや無線の性能向上によって、母艦上空を守る直掩戦闘機隊の指揮誘導が飛躍的に向上した事実だけでよい。
技術的に難解な兵装解説に拘り過ぎて、空母戦を検証するという趣旨から逸脱してしまっている。
読者の大半は歴史考察が読みたいのであって、電波工学の講義を受けたいわけではないだろう。
まさにその旨が、本書冒頭「まえがき」と「はじめに」の項で述べられているのだが、まさかここまで偏重しているとは思わなかった。
表紙の写真が“英”空母であることに抱いた違和感、本書が革新的な着眼点から「空母戦」に迫っていることを改めて見極めるべきであった。

本来私からすれば、欧州戦線に於ける英空母運用のトピックなどは余談でしかないのだが、タイトルに「日米“英”海軍の〜」とある以上、致し方あるまい。
全ては私の思い違い、「検証-空母戦-」というタイトルへの先入観と、内容の確認を怠ったことから端を発っしているとはいえ、朝鮮戦争のジェット戦闘機や現代の対艦ミサイルへの言及、果ては奇を衒った伝書鳩のコラムなど、明らかな蛇足も少なくない。
このように、第二次世界大戦の「空母戦」という概念からは逸脱した記述が多数あるにも拘らず、肝心の日本海軍に関する記述は非常に乏しい。
巻末の参考文献を確認するに、日本語の一次資料は皆無、二次資料に唯一、坂井三郎氏の『大空のサムライ』があるのみで(坂井氏は母艦搭乗員の経験なし)、ここに英語圏研究者特有の傲慢さを感じ取ったのは私だけだろうか?
逆の場合、日本人研究者ならば、このようなことはあるまい。
日本語の資料を精査せず、第二次世界大戦の「空母戦」を語るとは、信じ難い怠慢ではないか。

p348より
>すべての時期を通じて最も費用対効果が高かった対空火器は、おそらくブローニングM1911 45口径ピストルであろう。〜中略〜 零戦のパイロットはパラシュートからパラシュートへと移動し、飛行士を殺していた。〜中略〜 パイロットの頭部に弾丸を撃ち込んで零戦を撃墜した。それを5回繰り返せば、あなたはエースになれる。

「第24章 大口径対空砲の有効性」から引用させていただいた。
ボフォース40�仟亢�機関砲の緻密な分析に感心していたら、この記述である。
日本人読者を煽るような数行をわざわざ記す暇があるのならば、日本語の資料を読み込んで、日本海軍の対空兵装にも言及していただきたい。
低俗な皮肉で悦に入らずとも、明確な資料によって、その貧弱さを充分指摘することができるではないか。
米軍の圧倒的生産力、科学技術の先進性、練り上げられた空母運用ドクトリンは、比較対象である大日本帝国海軍の短所を詳らかにすることによって、より一層際立つというものだろう。

忌憚なく申し上げるならば、そもそも「検証-空母戦-」というタイトル自体が適切ではない。
日米の記述配分に差異があり、掘り下げる項目が科学技術に偏重していることをタイトルで明確に示すべきではなかろうか。
本筋から逸脱し冗長なばかりの本文よりも、訳者である川村幸城氏による「あとがき」の方が遥かに的確な「空母戦」の検証であった。

批判続きで恐縮だが、最後に翻訳について。
ヤードポンド法はメートル法に、海戦名は米軍呼称ではなく日本軍呼称に統一していただきたい。


Wikipediaの圧勝
★★☆☆☆
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