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2026年09月19日11:30

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映画「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」

アレン・ネルソン(青年期/マーク・マーフィー)は、ベトナム帰還兵。廃屋のようなビルの一室でなんとか暮らしている。
たまたま買い物の帰り、ハイスクールの同級生の女性に会う。小学校の教師をしている彼女はネルソンに、「父親がベトナムの戦場にまだ行ってる子どもたちもいるので、ベトナムの話をしてほしい」と依頼。

なんとか小学校の教壇に辿り着いたネルソン。
最初は「トイレにいきたくなったらどうするんですか?」といった子どもたちの他愛ない質問に答えていたが、ある女の子の、
「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」という質問に、彼は身体をこわばらせて絶句する。

極貧の家庭でネルソンは育ち、父親は暴力をふるい、ネルソンはそれから逃れるように海兵隊に志願。
ベトナム戦争へ兵士を送り込むための機関だったから、彼らは、
「考えるな」「命令に服従」「殺せ」とこの三つを叩きこまれた。
そして「アジア人は人間ではない」とも。

ネルソンがまず送られたのはオキナワだった。
そこで彼らは、教えられた通り、沖縄の人々を見下し、店やタクシーの料金を踏み倒し、抗議されると激しい暴力をふるった。

だが、実際にベトナムの戦場に送られると、過酷な現実が待っていた。
ジャングルをかき分け、ベトコンが潜んでいる村に潜入するが、実際はだれがベトコンなのかどうかよくわからない。
結果、「村人を皆殺し」という事態になる。
戦友には殺したベトナム人の耳を削ぎ取って、コレクションする者もいた。
はじめて銃を放って、ベトナム人の村人を殺害したネルソンは、さいしょは動揺したものの、まさに、「何も考えずに命令のまま殺す」ことを実行、ベトナム人を次々殺すことになんの感情もわかない状態になって、老人も女性も子どもも殺していった。

ようやく、任期を終え、アメリカに帰れることになったネルソン。
その後ネルソン(ロドニー・ヒックス)は男の子のいる女性と結婚するのだが、不眠になり、悪夢にうなされる日々が続く。
ベトコンの兵士がいる! とおびえて、首を絞めた相手は、妻だった。

ネルソンは、ダニエルズ医師(ジェフリー・ラッシュ)の元に通ってカウンセリングを受ける。ダニエルズはしつこいくらいに「なぜ殺したのか?」と訊くが、ネルソンはいら立ち「殺さなければ殺されていた!戦争だったんだ!」と答える。
いつまでたってもネルソンの悪夢は去らない。
そしてある日、ネルソンは「殺したくて殺してしまった!」と自分の心の闇を、ダニエルズにぶちまけるのだった。

義理の息子がハイスクールに進学した頃、学校に海兵隊入隊案内のパンフレットが配られたことを知り、ネルソンは激怒。学校側に、ベトナムでの話をさせてくれ、と申し出る。
「海兵隊入隊も職業選択の自由だから」と学校は渋る。
ネルソンは半ば強引に、義理の息子のいるクラスで話を始めた。
さいしょはクラスメートと雑談し、ネルソンを無視していた彼らも、その悲惨な戦場の体験に言葉を失う。

その後ネルソンは、PTSDに苦しみながら、ベトナム戦争の体験を講演する旅を続ける。
いよいよ当事者でもあるベトナムでの講演に向かい、日本でのコーディネーター・黒井(リリー・フランキー)が付き添うが、ネルソンの精神状態が不安定だ。
そんな彼に黒井は、
「自分の父親も戦争からの復員兵で、PTSDに苦しんでいた」と告白するのだった。

ベトナムの会場。聴衆の同胞をかつて自分は無残にも殺戮したのだ・・
ネルソンは涙ながらに、戦場での残虐行為を話すのだった。


近年になって、元兵士のPTSDが語られるようになり、「戦争では『加害者』にも、深い傷を残す」ということが認識されるようになってきた。
まさに時宜を得た作品であるが、塚本晋也監督は、もうずいぶん前に出版されたネルソン氏の手記を読んで、映像化を考えていたらしい。
12年前に制作の「野火」でも、塚本監督は、人間性を狂わせる戦場を描いている。

わたしの職場の先輩から昔聞いた話。
お盆に親戚が集まっていた。ちょうどその時期なので、テレビで、日中戦争のドキュメンタリーを放映していた。ところがそれを見ていた親戚のおじさんが、突然、ガタガタと震えだし、涙を流して尋常でない状態になったという。
先輩によれば、そのおじさんはふだんはおっかなくて怖い人なだけに、そういう態度を取ったことにびっくり。しかし、彼は中国戦線に出征していた経験があったので、
「たぶん、中国でなんかあったんだろうね、ってあとで親戚のみんなと話したことがある・・」と。

本作は、戦場のシーンはやはりリアルで、残酷な場面もずっと続く。当たり前だが、そういう場に長く居続けて、まともな精神でいられないだろう。
あの「ライ麦畑で捕まえて」のサリンジャーも、戦後長く「隠遁生活」をしていたが、ノルマンディー上陸作戦の従軍体験が影響しているのでは、と言われている。

塚本晋也監督の、戦争の悲惨さへの警鐘をあらためて鳴らす作品作りへの執念を感じた。
名優のジェフリー・ラッシュも出演している。
(9月16日、キノシネマ天神)
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