mixiユーザー(id:263792)

2019年12月13日21:57

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291/292冊目 『星夜航行 上/下』

飯嶋和一著

題材は「文禄・慶長の役」
上下巻合わせ千項超、圧倒的ボリューム。
十六世紀末の東アジア情勢を全て描ききらんとする飯嶋先生の執念までが伝わってくるようです。
流石流石の超大作、読書期間六週間、貸し出し延長依頼二回、読書メモ四枚、これは過去三百冊中最長・最大記録です。

そうッハッキリ申し上げて長いッ!!長過ぎッッ
そして、、、あんまり面白くない(哀)
小説に非ず。歴史資料・戦記也。
終始一貫、俯瞰。
読者という遙か高次元の立場から登場人物たちを見下ろしている、読者の感情が登場人物の目線まで降りていくことはない。
感情移入皆無、史実を他人事として淡々と受け入れていく感じ。

劇的な展開、それこそ泣かせようと思えばいくらでも泣かせられる場面てんこ盛りにも関わらず。
それらを悉く軽めに流すとは如何に?
敢えて感情を呼び起こさないような描写なのか?
これが飯嶋先生の作風なんでしょうか?
今作が初対決なんで皆目見当が付きません。
主人公の「沢瀬甚五郎」も喜怒哀楽、感情の発露が乏しく小説の主人公としては弱い。
俺は小説を読んでるんです、歴史の勉強をしてるわけじゃないんです。
もっと登場人物たちと一緒に憤り、怒り、悲しみたい。
小説読んでるのに“凪ぎ”ですよ、心に全く波風が立ちません。

歴史資料と揶揄するだけに(←御無礼は平に)、俺が歴史小説においていつも重視する公平中立さは非常にバランスが取れてます。
秀吉の無謀な侵略、朝鮮王朝の腐敗、明軍の横暴振りがそれぞれ過不足無く描かれていて一先ずは納得しました。
もし一方的に秀吉への罵詈雑言ばかりが並べられていたら、とても読了はおぼつかなかったでしょう。

さて朝鮮出兵モノといえば、すぐに思い出されるこの二作。
→44「黒南風の海」と、
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1794682943&owner_id=263792
→261「もののふ莫迦」
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969172510&owner_id=263792

「もののふ莫迦」の主人公「岡本越後守」は今作でも登場。
勿論主役と脇役という差はあるでしょう、それでもキャラクターの“濃さ・密度”に圧倒的開きがある。読者を物語の先に引っ張っていく“読書牽引力”が全く比べものにならない。
そして「黒南風の海」とのリアリティの差、血と硝煙の臭いが立ち籠める戦場にいきなり放り込まれるかの如く、まるでVRの様な臨場感は今作では望むべくもありません。
その淡泊な描写故、感想で散見される戦禍に巻き込まれた民草の悲哀もそれほどには伝わってきませんでした。
読者とキャラクターの間に厳然と存在する次元の壁。
今作の主人公「沢瀬甚五郎」が作中どんなに過酷な運命を辿ろうとも、こちらは戦火の及ばない読者という絶対安全圏から自分には関わり合いのない物語として冷静に眺めているだけです。

それにしても今作の、その華麗なる受賞歴と批評家方の絶賛よ。
いかにも娯楽作品を低俗と見做しがちな先生方が好みそうな作風ですよね。
う〜〜ん、マジかッ!?
ヤベぇ、無性に権威に反発したくなる天邪鬼本領発揮ですよと。
内容だけじゃなく、文体との相性もイマイチ。
台詞や心理描写を省いた過去形縛りの短文の連続、句点の度にリズムがリセットされて、読んでいても全く波に乗れません。
その代わり、身につけてる着物や容姿については各キャラ初登場時にこれでもかと詳述、また出てくるかどうかも分かんないヤツの格好なんかどうでもいいいから、もっと心理描写やって下さい!みたいな。
終始、飯嶋先生の描きたいモノと俺の読みたいモノがズレてる感じ。
ここまで来るともう客観的な小説の批評というより、完全に相性の問題ですね。
好き放題ついでにネタバレもいかしてもらいます、スイマセン。

▼△▼ネタバレ注意△▼△

そもそも天正七年の遠江から始める必要あります?
もっと朝鮮出兵と沢瀬甚五郎にフォーカスした方が、、、
途中小西行長が主役みたいになってるし。
東アジア全域を舞台にする壮大さは感じましたが、マニラの件も正直蛇足。
それでいてかつての小姓仲間との劇的な再会や家康との運命の対面はアッサリ。
殺し合いに嫌気が差して商人になったのに降倭隊に入るなんて、、、
戦場でかつての仲間に遭ったらどうすんの??また殺すんかいッ!!
何っつーか、どこも腰掛けなんですよ、遠江、堺、博多から海を越え東アジア全域へ。
そして武士から商人、そして降倭へと。
戦を止めたいという漠然とした思いはあるものの、人生を突き動かす確乎たる信念がなくその場その場の状況を流転していくというか、、、
博多にほったらかしにされた嫁と娘が可愛そうだわ。
最後の最後まで、沢瀬甚五郎という掴み所のない主人公に惑わされ続ける読書と相成りました。

▼△▼ネタバレ注意△▼△

でもまぁよくよく考えるに、いざ現実ってこういう曖昧なものか。
「主君信康の仇、家康を討つ」って方が、小説の主人公のモチベーションとしては解り易いし感情移入も楽ですが、人間や人生ってヤツはそう単純に割り切れるもんじゃありませんよね。


相性の問題
★★☆☆☆
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