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2023年05月07日16:51

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366冊目『南洋のエレアル』

中路啓太著

中路先生との対戦は、これで四作目。
主力とはいかないまでも、困ったときの歴史モノと言えば中路先生って感じで、ウチの次位をガッチリ担っていただいております。
「吉川広家」とか「ロンドン海軍軍縮会議」とか、毎回毎回目の付け所が独特なんですよね。ソコ行くかッ!?みたいな。

今回はパラオ。
フィリピンの南にある島国で、かつて日本の委任統治領だった南洋の楽園。
そこで暮らす日本人少年智也と、パラオ人少年シゲルとの友情物語。
パラオと言えば、真っ先に太平洋戦争の激戦地「ペリュリュー島」を思い浮かべます。
この楽園に米軍が侵攻して来るのは歴史的確定事項、序盤の長閑な日常描写が崩壊することをネタバレ状態で読み進める辛さといったら、、、

さて、何から語りましょうか、、、
そうですね先ずは、

「中路先生ッよくぞ言ってくれましたッ!!」

これに尽きます。
そうなんです、近代史をテーマにした作品を読むと色々とモヤモヤすることも多くて。
そりゃもう、対立する思想信条、様々な主義主張が複雑に絡み合ったポリコレ地雷原ですから。
そんなモヤモヤを吹き飛ばす智也の台詞、シゲルの決意。
キャラクターを通して中路先生の熱き思い、しかと受け取りました。
国旗を見ても解る通り、パラオの人々は今も日本に親近感を抱いてくれています。
かつて日本に統治され、国土が戦場になったにも関わらず。
俺も一人の日本人として、彼らの気持ちに応えたい。
素直にそんな気持ちにさせてくれました。

「貴方が人生を生きて行く上で、最も大切にしている価値観は何ですか?」
こう問われて何と答えます?
愛とかお金とか生き甲斐とか色々あると思います。
俺は「義」です。
辞書によると
>人としてふみ行うべき道。利欲を捨て、道理にしたがって行動すること。
とあります。
利欲は否定しません、勿論お金は大事。
しかしながら、人生で重要な局面に於ける判断の第一要素として、「義」は重んじられて然るべきかと。
俺の中でこの概念をもっと端的に言えば、受けた恩は絶対に忘れない、助けられたら次は自分が助けるという気概です。

まさにこの「義」を、作中でシゲルが活き活きと体現してくれています。
当時もシゲルの様なパラオ人が大勢いたんでしょう。
この一事が日本人としてどれほど嬉しいことか。
そしてバブル絶頂期に来日したシゲルが、現代の日本社会に失望する様を見せられるのは日本人としてどれほど嘆かわしいことか。
日本は敗戦で軍国主義から脱却し、民主主義を与えられ、高度経済成長で豊かさを手に入れました。
そしてバブルが崩壊し、経済で世界一になるという目標が頓挫したとき、ふと気付いたわけです。
確かに生活は豊かになったけれど、何か大事なものを置き去りにしてきたのではないか?と。

皮肉なもんです。先だってあれほど物質的豊かさの重要性と精神主義への傾倒を批判しておきながら、その舌の根も乾かぬうちにこの流れとは。
『太平洋の試練 レイテから終戦まで』→361
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984657419&owner_id=263792

要は使い方とバランスかと。
包丁は食材を切れば美味しい料理を作る道具ですが、人を刺すことも出来ます。
大和魂や日本精神も一緒。
軍国主義に利用され敵を憎むために注ぎ込むのか、それとも日本をより良い国にするために発揮するのか。

今作で改めた感じたことは、“思い”が持つエネルギーの強さ。
この物語を読み終わって、一人の日本人として誇らしくもあり情けなくもあり、そして祖国日本を今まで以上に好きになりました。
パラオの人々や世界に対して、恥ずかしくない国にしたい。
たとえ個人で出来ることは僅かでも、その思いを持ち続けたい。
殆どの読者が同じような感想を抱くのではないでしょうか。
とは言え、鼻白む方も一定数いらっしゃることは否めません。
歴史問題は今も燻り続けていて、本当に様々な意見があります。
当然恩を忘れないならば、恨みも忘れないという人たちもいることでしょう。

大日本帝国がアジアに惨禍をもたらしたのは紛れもない事実。
このことを我々日本国民は未来永劫、肝に銘じておかなければなりません。
しかし、国が個人の集まりである以上、完全無欠な善/悪ということがありえるでしょうか。
最悪な時代だったが、立派な人物もいたし良いこともあった。
この至極当然のことを、もっと認識し喧伝してもいいのでは。
言葉通り本当の意味での真の反省も、正当な糾弾も、当事者(実際の加害者と被害者)以外不可能です。
我々の憎悪を煽り立て、“思い”が持つエネルギーを過去に縛り付けようとするのは誰なのか。

智也の父「恒昭」が憎しみを手放したエピソードは沁みました。
恒昭がシゲルに、そして中路先生が読者に伝えたかった、憎しみを次世代に受け継いではならないという思い。
戦場が「アンガウル」だったんで、すわッ不死身の分隊長「舩坂弘」氏登場かッ!?と期待するも、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%88%A9%E5%9D%82%E5%BC%98
流石に話の軸がズレますんで、この超展開はナシ。
中路先生、次回作「舩坂弘」どうすか? いやぁマジで読みたいわ。
ドキュメンタリーで年老いた旧日本兵と元米兵が泣きながら抱擁する場面を何度も見ました。
実際に殺し合った人たちの心が通じ合う様は、本当に胸に迫るものがあります。
いつか人類が、憎しみという呪いを克服する日が来ることを信じています。

、、、、、、。

ほらぁ〜〜また全然感想じゃないじゃん。
サーセン、いつもの癖でまた突っ走っちゃいました。
軍事オタクの俺からすれば史実がネタバレ状態なんで、正直展開は読めました。
でも太平洋の島嶼戦の凄まじさを知らない読者には、中盤の戦闘描写は衝撃的でしょう。
人間同士が殺し合うという極限状態から更に積まれる艱難辛苦の数々。
兵士ならば当然目指すべき勝利も生還もなく、ただひたすら飢えと渇きと苦痛が繰り返される日々。
シゲルは訴えます、戦場になった島の住民で、日本の兵隊さんの幽霊を見てない者はいないと。
戦死者の遺骨は戦後八十年経った今でも、太平洋の島々で草生しています。
それなのに殆どの日本国民は冥福を祈るどころか、その存在すら認知していないというこの現状。
それにしても、我々日本人の戦没者に対するこの冷淡さよ。
これじゃ死んでも死に切れない、余りに非情じゃありませんか。
称えよとまでは言いません。
しかし、せめて彼らがどんな“思い”で出征し、如何に戦い、そして死んでいったかを知ることは国民の“義”ではないでしょうか。

、、、、、、。

いかん、また右旋回してもうた。
サーセン、今作から放たれる中路先生の熱き“思い”に、どうしても饒舌になっちゃいまして。
感想ね、小説の感想。
そう!御覧の通り、メッセージ性はひしひしと訴えてくるものがあります。
しかし、物語の完成度とはまた別の話でして。
先ずは、序盤の思わせ振りな伏線について。
読書中ずっと気に掛かるも回収されず読了。結局最初の一章まるまる無駄なんですけど、アレいります?
あんだけ思わせ振りに書いといて、本筋と全く絡ませないとは一体全体どういう料簡でしょうか?
次に終盤の唐突な新キャラ捩じ込みついて。
何の脈略もなく不良少女が登場して、速攻で更生する超雑展開。
まさに取ってつけた感満載の家族の再生話、アレいります?
中盤パラオの描写が緻密なだけに、序盤と終盤の粗さがバリバリ目立ちます。
無理矢理事件を盛り込まずとも、智也とシゲルが再会するだけで充分魅せられるのでは。
折角の感動に水を差されるというか、正直邪魔。

さて、ディスりはこのぐらいにしといてと。
後は、、、そうですね、各章題が良い味出してます。
「楠公と尊徳」、「やむにやまれぬ大和魂」、「男に七人の敵あり」等々。
昭和初期の価値観がそれぞれ一言でズバッと言い当てられてて、ストンと腑に落ちる感じ。
「太平洋の防波堤」なんかは、この一文だけでも日本軍守備隊の絶望的な戦いが想起されて、もう既にちょっと込み上げてくるものがあります。
表紙を開いて章題見た瞬間、こりゃ泣くなと思いましたもん。

ネットのレビューも少ないし、図書館で借りた現品もピカピカ。
刊行されてまだ日が浅いのもあってか、未だ人気作には至らずの感あり。
色々と考える切っ掛けになり得る作品だし、太平洋戦争について興味がない読者にも何かしら響くものが絶対にあるはず。
思想信条、主義主張はどうあれ、日本人として先の大戦について学ぶことは必須。
ノンフィクションは重過ぎるというそこの御仁、先ずは物語から入ってみては?
お薦めです。


世界のエレアルを信じて
★★★☆☆
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