横山秀夫著
「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」
バブル崩壊のあおりを受けやりがいのある仕事が激減し、建築士としての自信を失っていた青瀬稔は、吉野夫妻のこの依頼を訝りながらも引き受ける。
始めこそはその奇妙な依頼に戸惑っていた青瀬だったが、吉野夫妻の激励もあり次第に仕事への情熱を取り戻す。
そして様々な試行錯誤の末、北側の窓から柔らかな自然光(ノースライト)が降り注ぐ吉野邸が完成した。
出来栄えには吉野夫妻も大いに満足し、メディアにも取り上げられた吉野邸は青瀬の最高傑作となる。
しかし完成から数ヶ月、未だに吉野夫妻が入居していないという噂を耳にする。
最高傑作を足蹴にされ、またしても建築士としての自信が揺らぐ青瀬。
あれはもう終わった仕事だと必死に割り切ろうとするのだが、、、
面白い。
主役が探偵でも刑事でもなく、建築士というのがミソ。
作中所々で織り込まれる建築業界ウンチクに興味をそそられる。
ダムの型枠職人であった父の仕事の関係で、日本中を「渡り」住んだという過去もキャラクターに深みを与えている。
そして作中最重要キーワードであるドイツの建築家「ブルーノ・タウト」の存在。
ここいら辺の日独異文化交流の件も読ませてくれます。
吉野邸に置き去りにされた「タウトの椅子」(表紙の絵)を手掛かりに、失踪した吉野夫妻を探すことになるわけですが、この基本軸以外の要素もてんこ盛り。
理想のマイホームを巡る些細なすれ違いから離婚してしまった妻ゆかりとの関係、所属する設計事務所が乾坤一擲の大勝負をかける美術館コンペティションの過程。
この三軸が絡み合いながら感動のラストへという塩梅なのですが、どうもこの三軸の連携がかみ合ってないというか。
折角吉野夫妻の新しい手掛かりが見つかって、やっとこ尻尾を掴んだと思いきや、コンペが忙しくてとてもじゃないが捜しに行けないという展開は正直ストレスが溜まります。
そもそもあれだけ事件性が濃厚な現場を確認しておきながら、警察に通報せず自ら探偵気取りで捜索に乗り出すという状況がもう何っつーか、「THE小説の主人公」って感じでブッ飛んでて違和感アリアリですけど。
しかも、世話になった設計事務所が大事なコンペを抱えてるこのタイミングでッ!
そうなんですよ、ミステリーなんです。
先ずは吉野夫妻失踪という謎があって、失踪しなければならなかった動機があると。
そして失踪に付随する様々な謎にも整合性が求めれれる。
これがミステリーの厄介なトコでして。
当然最後に全ての謎が明かされるわけですが、、、
感動しました。
建築。家を建てる、自らの創造物を後世に残すという行為、あれは俺が建てた家だと子供たちに誇れる仕事。
思いを形で表現出来るということの素晴らしさ。
登場人物たち全ての未来が、吉野邸の優しいノースライトに包まれているようなラストは本当に感動しました。
がッ、ミステリーなんです、ミステリーなんですよ。
ヒューマンドラマだったら良かったのに。どうしてもジャンルに囚われてしまう悲しい性。
野暮は重々承知なれど、やっぱアソコおかしくね?というツッコミが抑え切れない。
動機の必然性と謎の整合性に対するモヤモヤ霧が、感動のノースライトを遮ってしまうという、、、(哀)
俺の天邪鬼な心もノースライトで照らして欲しいわ
★★★☆☆
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