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2018年04月15日18:39

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「ヌード NUDE～英国テート･コレクションより」/横浜美術館

4/10(火)、浜松駅を8:50発の新幹線こだまで出発した。
新横浜で新幹線を降り、みなとみらいに着いたのが11:00過ぎ。
横浜美術館に入る前に、MARK ISの地階で早い昼食を取った。

横浜美術館で開催しているのは「ヌード NUDE～英国テート・コレクションより」。
・会期　3/24～6/24

テート美術館(*)が所蔵する「ヌード」をテーマとした作品から選りすぐりが持ってこられている。全134点。
時代はヴィクトリア朝(1837-1901)から現代迄の約200年間に限定。その中には、日本初公開となるロダンの彫刻《接吻》が含まれている。

(*)1897年に開館。英国を代表する国立美術館の1つ。テート・ブリテン,テート・モダン,テート・リヴァプール,テート・セント・アイヴスの4施設からなる。コレクションは総計約7万点。年間の来場者は合計660万人を記録。

200年間でも「ヌード」のテーマと作品は変化してきた。
その変化を、展覧会の構成から見てみよう。

1.物語とヌード
2.親密な眼差し
3.モダン・ヌード
4.エロティック・ヌード
5.レアリスムとシュルレアリスム
6.肉体を捉える筆触
7.身体の政治性
8.儚き身体

ロダンの《接吻》は第4章にあり、展覧会全体の中央に位置付けられている恰好だ。

各章の意味と代表作をピックアップする。

1.物語とヌード
19世紀、英国ヴィクトリア朝の時代では、ヌードは神話,聖書,古典文学を題材とした絵の中でのみ描く事が許されていた。モラルが芸術に優先する時代だった。
しかし、それは建て前であって、そういう条件下でも、芸術家は、エロティシズムや人間の欲望を何とか表現しようとしたものだ。

ウィリアム・エッティ《寝床に就く妻を下臣ギュゲスに密かに見せるリディア王カンダウレス》(1830)
ジョン・エヴァレット・ミレイ《ナイト・エラント(遍歴の騎士)》(1870)

2.親密な眼差し
ヴィクトリア朝で描かれるのは、神々や英雄、王侯,貴族だったが、19世紀後半になると、同じ時間を生きる普通の女性が、日常的空間の中で描かれるようになる。(フランスでは時代推移はもっと早い。)
プライベートを覗き見るかのような、モデルとの親密な関係がそこには存在する。

エドガー・ドガ《浴槽の女性》(1883)
ピエール・ボナール《浴室》(1925)
アンリ・マティス《布をまとう裸婦》(1936)

3.モダン・ヌード
20世紀初頭には、ヌードそのものが独自のジャンルとして確立する。キュビスムやドイツ表現主義は、身体を新たな視点で捉えなおそうとした。西欧以外の文化の取り込みは、やがて抽象的な人体表現へ辿り着く。

アンリ・ゴーティエ=ブルゼスカ《赤い石のダンサー》(1913頃)
アルベルト・ジャコメッティ《歩く女性》(1932~36頃)
ヘンリー・ムーア《倒れる戦士》(1956~57頃)
パブロ・ピカソ《首飾りをした裸婦》(1968)

4.エロティック・ヌード
ただのヌードでなく、愛と性をテーマとした作品。(同性愛含む)愛の行為に迫ろうとする芸術家達の取り組み。

オーギュスト・ロダン《接吻》(1901~04)
デイヴィッド・ホックニー「C.P.カヴァフィスの14篇の詩」のための挿絵より (1966)
ルイーズ・ブルジョワ〈自然の法則〉(2003)

ロダンの大理石彫刻《接吻》に表されているのは、ダンテの『神曲』(1304~21)に登場するフランチェスカ･ダ･リミニとその夫の弟パオロ･マラテスタの悲恋である。
そういう意味ではロダンは歴史画の伝統を踏まえている訳だが、世の人々はこの彫像から、もっと生々しい官能を見出し、不倫を以ってこの作品を評価した。1913年の初めての展示機会には、エロティック過ぎるという理由から、シーツで覆い隠される始末だった。

本展では、この作品のみ、写真撮影可のはからいとなっている。
私も、言う迄もなく、他の観客達同様四方からこの作品を撮影した。
帰ってその画像を改めて見ると、プロのカメラマンや美術評論家含む多くの人々によって既に繰り返し紹介されてきた手合いのものばかりで、改めてここに貼付する意味も面白味もない。

敢えて掲示するのは、以下の2枚。

パオロの手。
彼が持っているのは、ダンテの『神曲』の「地獄篇」である。
そこには、彼自身の運命が書かれている。

2人の足。
官能の神は細部にこそ降りたもう。

5.レアリスムとシュルレアリスム
第1次世界大戦後、それ迄西欧文明が延々と突き詰めてきた合理性や機能性に芸術家は失望せざるを得ない。彼等は、無意識や夢をキーにシュルレアリスムという未知の領域に入り込む。
一方、現実を捉え直し、人間の身体に肉薄しようとするレアリスムも再び勃興する。

マン・レイ《ヌード》(1930頃),《無題(ソラリゼーション)》(1931)
ハンス・ベルメール《人形》(1936)
スタンリー・スペンサー《ふたりのヌードの肖像：画家とふたり目の妻》(1937)
ポール・デルヴォー《眠るヴィーナス》(1944)
バルテュス《長椅子の上の裸婦》(1950)

6.肉体を捉える筆触
レアリスムの動きは、第2次大戦後の1950年代以降、展開分化していった。
人体の物質性と内面性を表現するに、絵の具はその豊かな筆触によって、さまざまな可能性を見出した。
フランシス・ベーコンはデフォルメにより不安や孤独を、ウィレム・デ・クーニングは、激しい筆致による抽象表現主義で女性の生々しい身体を、ルシアン・フロイドは、長い時間をかけた観察と厚塗りにより、非理想化された人体に真実を見つけ出した。

ルシアン・フロイド(精神分析医ジークムント・フロイトの孫)は、永いことその生の作品を観たいと思ってきたが、今回やっと1枚、夢が叶った。

《布切れの側に佇む》(1988~89)
その荒々しい筆触は、印刷物からは到底想像できないものだった。

7.身体の政治性
ヌード作品というと美しい女性のそれと思いがちだ。その価値観は男が勝手に作り上げてきたものだ。
最近でこそ男性のヌード作品も見られるようになってきて、このアンバランスも多少は解消しつつある。
しかし、黒人男性のヌード作品というと殆ど存在しない。
第7章は、ヌードの問題を政治的観点から取り上げている。

バークレー・L・ヘンドリックス《ファミリー・ジュールス：NNN ( No Naked Niggahs「裸の黒人は存在しない」》(1974)

8.儚き身体
写真が大衆化してから、(女性)ヌード写真は、男性の快楽のために存在し続け、売られては消えていく儚い商売のネタだった。
その一方で、1980年代、大判写真で、違う儚さ(それは死を連想させないでいない)を表現するものが現れる。物質としての身体、老い、生と死、出産と生命、ジェンダーに与えられた固定的イメージ、等々。

リネケ・ダイクストラの大型シリーズ写真。
出産した日の赤ん坊を胸に抱き、白い無機質な壁の前で立つ等身大の女性ヌード。
流れる一筋の血から目を逸らす訳にはいかないが、タイトルは、ただ女性の名前と場所と時を表すのみ。

同美術館コレクション展の展示は、いつもながら中身が濃い。
・会期　3/27～6/24

■「コレクションをつくる。未来へつなぐ～近年の収蔵品より」
1.横浜から世界へ～宮川香山、藤田嗣治、長谷川潔
2.原三渓とゆかりの画家
3.現代版画の多様な広がり
4.同時代のアーティストの作品：日常と非日常の境にリアルを探る。
5.特集①土田ヒロミ「ヒロシマ」シリーズより
6.特集②石川直樹「ARCHIPELAGO」より

■「人を描く～日本の絵画を中心に」
この中では、本編展示に合わせ「裸体画」コーナーが設けられている。
下村観山のミレイ模写作品《ナイト･エラント》、松井冬子《成灰の裂目》、諏訪敦《Stereotype Japanese 08 Design》他を含む。
1.裸体画
2.アノニマスな肖像～私たちの心を映す人のかたち
3.人形
4.肖像画
5.歴史人物画
6.物語･説話の人物
■イサム･ノグチと近代彫刻

(続く)
　

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