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2024年02月27日13:37

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読書日記N o.1597(言い切ることは美しい)

■山本夏彦「世は〆切(しめきり)」1999年4月文春文庫

マイミクの皆さんは、2002年に亡くなられた、山本夏彦というコラムニストを、
ご存知でしょうか。

前回の読書日記で、小林秀雄を取り上げましたが、その文中に、山本夏彦さんが
小林秀雄のことを評した、以下の文章を引用しました。

”昔読んだ、山本夏彦さんのエッセイに、次のような記述がありました。”

”昭和52年初版五千円もする小林秀雄の「本居宣長」は十万部以上も売れたそうです。
売れたからといって読まれたとは限りません。なぜこんなことがあるのでしょう、
小林さんは生き神様になったのです。さわらぬ神にたたりなしと言いますから、分か
らないと誰も言うものがいなくなったのです。”(山本夏彦「世は〆切」34頁)

山本夏彦さんは、亡くなるまで、新潮社や文藝春秋の雑誌に、コラムを連載され、
その辛口のユーモアを感じるコラムは、人気を博し、コラムニストとして一世風靡を
された方です。

今回は、偶々、書棚から手に取ったので、四半世紀前に刊行された文庫本ですが、
懐かしくて、一気に読み通した次第です。

私が、山本夏彦さんの読者になったのは、振り返れば、書店の店頭で、山本夏彦さん
の本に、おいでおいでと手招きされたからでした。「編集兼発行人」という文庫本で、
一読しもっとこの人の本を読みたいと思い、たくさん読みました。

以後、そのような、書店店頭で手招きされて、読むようになった著者に、内田樹さん、
養老孟司さん等があって、私の読書人生の大切なレパートリーになっています。

読者は著者を選んでいるようで、逆に、読者も著者に選ばれているのでは、との機微を
感じるきっかけとなったのが、私の場合、山本夏彦さんでした。

本書の帯の文言がよかったので、引用します。

”言い切ることは美しい。
 些事から入って神髄をとらえる。夏彦流の名コラム46編を収録。”

本書の惹句も紹介します。

”〈広告というものは昭和三十年代前半まで堅気のする仕事ではなかった〉(「電通」
早わかり)など、本質をついた辛口コラムの数々。”

”その一方で、昭和の世相風俗を描いて、やさしく清らかな眼差しに満ちた「謹賀新年」
「突っ込め」など46編を収録。”

”山本夏彦の世界がこの一冊に。”

コラムのタイトルだけ抜粋すると、以下のようです。

・口語文
・謹賀新年
・鰹節回顧
・教師ぎらい
・インテリぎらい
・「電通」早わかり
・いっそ「法人たれ」
・小説の時代去る
・寄席育ち清水幾太郎
・半七のことば

山本夏彦さんの文体のキレを、あとがきからの引用で紹介します。

”私は中江兆民を幸徳秋水の紹介で知った。秋水は斎藤緑雨の、緑雨は内田魯庵の
紹介で知ったとむかし書いたことがある。”

”みんな明治年間の人である。私は古本のなかで死んだ人の紹介で、死んだ人を知った
のである。それは生きている人の紹介で、生きている人を知るのと同じである。
したがって私は生きている人と死んだ人を区別しない。”

”こうして私は二葉亭四迷の、鈴木三重吉の、幸田文の追悼文を書いた。いずれも名の
ある人だが、すべて一度も会ったことのない故人である。”

”私はこれまで〆切をかたく守ってきた。それは原稿のことだけではない。冷蔵庫の
なかった昔は、魚屋は今朝仕入れた魚を売りつくして、無事一日を終えた。”

”魚屋のあるじはあとは枕を高くして寝るばかりである。まことに一日の苦労は一日
で足れりである。明日のことは思いわずらうなとは至言である。よって、今回は
「世は〆切」と題して自ら戒めた。”

キレのいい文体と、そこはかとなく漂うペーソス、四半世紀ぶりに、山本夏彦さん
の文体に、酔いしれることができました。

たまには、こんな読書ライフもいいものですね。
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