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2023年03月13日18:26

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名古屋フィルハーモニー交響楽団第510回定期演奏会①

3/11(土)、愛知県芸術劇場コンサートホールで行われた名古屋フィルハーモニー交響楽団の第510回定期演奏会を聴く。

ピアノ協奏曲のソリストがアレクサンダー・ガジェヴからフィリッポ・ゴリーニに変更された事、それに伴って一部曲目も変わった事については、2/15に報告した通り。
以下参。
　https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984393203&owner_id=3341406

重複するが、一応変更後のプログラムを書いておく。

[1]《ブルー･カテドラル》ジェニファー･ヒグドン(1962- )
[2]《序奏と協奏的アレグロ》Op.134 ロ―ベルト･シューマン(1810-56)
[3] ピアノ協奏曲《キューブ》酒井健治(1977- )・・・世界初演

　～休憩～

[4] 交響曲第5番Op.74 マルコム・アーノルド(1921-2006)

指揮　大井剛史
ピアノソロ　フィリッポ・ゴリーニ([2],[3])

以下、プログラム順にレポートする。

[1] 《ブルー･カテドラル》
作曲者のジェニファー･ヒグドンは1962年ニューヨーク生まれ。
様々な協奏曲で高い評価を得、ピューリッツァー賞やグラミー賞を多数受賞している。
この曲は、彼女が学び、また現在教授職にあるカーティス音楽院の創立75周年記念として委嘱された。
タイトルの「ブルー」は空の色で、無限の可能性の空間をも意味する。そして、1998年に亡くなった弟アンディのミドルネームでもある。
1999年の作曲、初演は2000年。その後アメリカでは極めて演奏機会の多い現代曲となっている。
「カテドラル」は教会や礼拝堂を指すが、特定の宗教を想定してはおらず、プログラム執筆者の谷口昭弘によれば「より幅広く、思索や成長、精神表現の場であり、この世と天界とを往来する扉のようなものだと彼女は捉えている」と。

冒頭、グロッケンシュピール、チェレスタ、トライアングルが、静かに瞑想的な音を出し、弦が郷愁漂うハーモニーを広げる。
弦の上でフルートとクラリネットが互いに声をかけ合うが、フルートはジェニファー、クラリネットはアンディを象徴する。
そのあと独奏ヴァイオリンが綿々とした歌で加わり、次第にオーケストラ全体に伝播して金管が最初の山を築く。
一旦静まり、イングリッシュホルンから始まって様々な楽器のソロが現れては消えていくが、これらはアンディと出会った人達を表しているらしい。
幾種類かパーカッションが加わり、その後テンポを上げ金管と弦がかけあって祝祭的な雰囲気を醸し出し、弟の喪失を乗りて越え精神の解放に至る。
波が押し寄せては引きつつクライマックスを構築したあと、もう一度姉弟が呼びかけ合い、最後は管や弦奏者達の多くが楽器を置き、ネジを挟んだプリペアドピアノの音の上で、中国発祥の健身球(*)を片手で長く震わせながら、静かに曲を閉じていく。

(*)健身球(チャイニーズ･リフレックス･ベル / チャイニーズ･ヘルス･ボール)

中国の明の時代に生れたと言われる健康器具。
七宝焼きの金属でできた中空の小さな球で、中にはワイヤーと大理石が入っている。
掌の内で２つの球を回転させ、手のリラックスや手術後の運動能力回復等に用いられるとか。
これを楽器として使用した例を他に私は知らない。

本曲の開始前、オーケストラの各奏者間に木の台が多数設置され、その上に四角形の入れ物が置いてあるのを見て、一体何だろうと思っていた。あとから分かったのだが、その入れ物の中に、それぞれ2個ずつ健身球が入っていたのだ。
プログラムによると、グラス･ハープも使用楽器の中に書かれていたが、ステージ上に見つける事ができなかった。

[2]《序奏と協奏的アレグロ》Op.134
シューマンはこの曲を1853年8/24～30という短期間で書いた。43歳の時で、妻クララ34歳の誕生日祝いのためだった。
独奏ピアノと管弦楽のための単一楽章の曲で、同年11/26にシューマンの指揮、クララのピアノで初演された。
1853年頃よりシューマンは精神疾患の症状が悪化、翌年の自殺未遂後療養所に入院、1856年に亡くなる事となる。
初演は大成功だったが、シューマンの死後、クララはこの曲を公の場で弾く事はなかった。
1853年はブラームス(当時20歳)がデュッセルドルフのシューマン宅を初めて訪れた年でもある。シューマンはブラームスの天分を激賞した。
ブラームスは本曲の出版(1855年6月)に多大な尽力をした。シューマンは結局この曲をブラームスに献呈した。

冒頭は「かなり遅く」とドイツ語で指示された序奏部。ニ短調3/4。
4小節の静謐なピツィカートのあと、独奏ピアノが厚い和音の付点音符で入り、16分音符の波のようにうねる叙情的な主題を歌う。このメロディは主部に入っても役割を有する。
切れ目なく主部に入り、ニ長調に転調、次第に加速しソナタ形式へ。生き生きと4/4。
ピアノソロの駆けおりるようなシンコペーションのテーマが繰り返されたあと、序奏部のメロディが挟まれ、ヘ長調の歌謡的副主題が現れる。何度も繰り返されるこの副主題は、日本人には山田耕作(1886-1965)の《赤とんぼ》のように聞こえて親しみやすい。
展開と再現が続き、序奏部の旋律をトレモロや分散和音で装飾したカデンツァが挿入され、例の歌謡的副主題が何度も繰り返されたあと、短いが堂々としたコーダで締め括られる。

(続く)
　

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