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2015年09月21日20:02

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読書日記No.855(村上春樹が考える、テーマのすべてが、ここにある)

■村上春樹「職業としての小説家」2015年9月スイッチ・パブリッシング刊

本書は、刊行されたばかりの村上春樹の自伝的エッセイだが、出版業界的
に少し話題になって、それは、紀伊国屋書店が、初版10万部の9割を買い取
ったということだった。

紀伊國屋の意図は、アマゾンへの対抗策。これくらいぶちかまさないと、
リアルな書店は、アマゾンにやられっぱなしという意地。

私は本の購入は、基本的に紀伊國屋新宿店でしているので、一向に構わなく
本書をゲットできた。

版元のスイッチ・パブリッシングは、聞きなれない出版社だと思ったら、
翻訳家の柴田元幸さんが興した、文芸の出版社で、「MONKEY」という雑誌
を出している。

本書はその「MONKEY」に連載されたエッセイに書き下ろしを加えて編まれて
いる。

早速、惹句を紹介。

“村上春樹がはじめて本格的に、自身の小説の現場と、それを支える文学への、
世界への考えをめぐって語り尽くした、読者待望の一冊が登場。その名も
『職業としての小説家』──”

“世界的に高い知名度を誇りながら、これまで多く神秘のヴェールに包まれて
きた<作家・村上春樹>のなりたちを、全12章のバラエティ豊かな構成で、
自伝的な挿話も存分に盛り込みつつ、味わい深いユーモアとともに解き明かしていく。”

“芥川賞、ノーベル賞など、時に作家の周辺をいたずらに騒がせてきた「文学賞」の
存在について、彼自身はどう考えているのか。なぜ、どのような形で、ある時から
日本を出て、いかなる試行錯誤と悪戦苦闘を経ながら、世界へ向かう道を歩み
はじめたのか。”

“<3.11>を経たこの国のどこに、問題があると見ているのか。そもそもなぜ、
彼は小説家という不思議な職業を選び、以来、40年近くの長きにわたり、衰えぬ
創造力で書き続けているのか──”

“それらすべての問いに対する、村上春樹の誠実で力強い思考の軌跡が、ここにある。”

ハルキファンなら、この本は、避けて通れない一冊だと思う。

村上春樹が、29歳のとき、神宮球場でヤクルト戦を観戦していて、突然、小説を
書いてみようと、ふと思ったという、有名な話や、小説を書くときは、心の井戸奥深く
下りていって、物語の泉から汲み取ってくる話など、どこかで読んだ話も満載されて
いる。

“誰のために書くのか、どのように書くのか、そしてなぜ小説を書き続けるのか、
小説を書くための強い心とは何か。”

村上春樹のメインテーマを、肉声で語っていて、堪能することしきり。

あとがきの、春樹さんの述懐を、ちと長いが、引用しますね。

“たまたま小説を書くための資質を少しばかり持ち合わせていて、幸運みたいなもの
にも恵まれ、三十五年あまりこうして職業小説家として小説を書き続けている。そして
その事実はいまだに僕自身を驚かせている。とても深く驚かせる。”

“僕がこの本の中で語りたかったのは、要するにその驚きについてであり、その驚きを
できるだけピュアなままに保ちたいという強い思いについてである。僕のこの三十五年
間の人生は結局のところ、その驚きを持続させるための切々たる営みであった。”

“僕は純粋に頭だけを使ってものを考えることが得意でない人間である。フィジカルに
手を動かして文章を書き、それを何度も何度も読み返し、細かく書き改めることによって
ようやく、自分の頭の中にあることを人並みに整理し把握していくことができる。”

“そのようなわけで僕は歳月をかけて、本書に収められたこれらの文書を書きためる
ことによって、またそれに何度も手をいれることによって、小説家である僕自身に
ついて、また自分が小説家であることについて、あらためて系統的に思考し、それなりに
俯瞰することができたように思う。”

・・・・ということは、「決定版」ですね、たぶん。

繰り返しますが、村上春樹ファンなら、必読ですよ、本書♪
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