●『黒焦げ』13/03/27
いつも真夜中に襲ってくる
暗闇を必死で逃げまどい
後ろから羽交い締めにされながら、
重くのし掛かるはかない面影に
うつ伏せになってのたうち回る
どのくじを引いたとしても
逃れる見込みがないのは
始まりから分かっている
淡く鮮やかな真珠に魅せられ
自然発火した体は激しい火焔をあげ
やがて燃え尽きて炭になり
くすぶる眼だけが宙を仰ぎ
忘れ去られて立ち竦む石になる
魂は胸を突き破れもせず
光の傍の群像の影にひしゃげ
沈黙の屍と化したあと
黒焦げの塊を雑踏のもとにさらすだろう
●『恋闇』14/02/24
溢れかえるほどの血をおくり
押し潰されそうな苦しさを与え
そこから逃げよと言わんばかりに
恋女に向かわせようとする者よ
この孤独な静寂に閉じこめられた男に
今、何が出来ると言うのだ
満月の夜に吠える犬の哀しい調べが
うつ伏せでうずくまる耳をこじ開け
食い縛る歯をきしませながら
地底の闇からうなり声がもれる
細く高らかに響く鳥のさえずりも
白く透きとおる翅のはばたきも
近づける両手の前で黒い煙と果て
梟の翼と化した影に逃げまどう
"光よ我にそそぎたまへ"
窓硝子に光る一筋のつゆに虚しく溺れる
●『火焔の夜』14/06/29
深夜放送も襖のむこうで消え去り
微かな耳鳴りだけが頭を貫いている。
美しいシンフォニーを宇宙に響かせようと
指揮台に立って顎を上げる。
目の前の指は何かを掴もうとしている。
何?
胸の底で小さな星がきらめく。
目を凝らせば
燃えさかる星。
向かい来る熱波の嵐。
嗚呼、今夜も。
毛細血管の隅々にまでマグマをはらませ
頭上に降りかかる火焔の雨にぬれる。
むな板に一文字の裂け目が。
また、今夜も落ちていく。
焔に抱かれながら見上げたむねに
やわらかく閉じる口。
勝手に燃えていく体に
さしのべられる手は無い。
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